母親の意思に従って行動するうちに「自分が消えてしまったんです」――。神奈川県に住むあやねさん(38歳、仮名)は、30代半ばまで約10年間ひきこもりました。ひきこもりに至った自分の人格形成に、「絶対的な存在」だった母親が大きな影響を及ぼしたと考えています。

内閣府の推計によると、15~39歳のひきこもり当事者のうち、約4割は女性です。これまで女性当事者の多くは、家事手伝いや主婦にカテゴライズされ、社会からは見えにくくなっていました。2016年ごろから、女性ならではの悩みを話し合う「ひきこもり女子会」などが開かれ、女性当事者の存在にようやく光が当たり始めています。

今回は、あやねさんの“心の旅”に迫ります。

高校1年生の夏、最初の「限界」が訪れた

 あやねさんは人当たりの良い、物腰の柔らかな女性です。本人は「人と話すのが苦手で、集団の中にいると、身を削られるようにつらいこともあります」と話しますが、そんな素振りは全くと言っていいほど見えません。

 「常に周囲の反応をうかがい、『人の輪にうまく溶け込んでいる』ようにふるまうことが、身についているんです」

 つらさを押し隠し、周りに気づかれないよう行動するのは「心に何重もの鎧(よろい)をまとって」(あやねさん)いるようなもの。次第に息苦しくなり、疲れ果ててしまうといいます。

 高校1年生の夏、最初の「限界」が訪れました。友人に囲まれ、ごく普通の学校生活を送っていたはずなのに、突然登校できなくなったのです。「ピンと張り詰めていた心の糸が、プチっと切れたような感じ。でも当時は自分の『しんどさ』に気づかず、無理に学校に行こうとしました」

 玄関ドアを細く開けたり閉めたりした揚げ句に結局出られない、学校の前まで行って校門をくぐれないといった毎日が続きました。

 母親は「何でなの? 何でなの?」と泣き、「留年してもう一度やり直そう」とも言いました。しかし結局、そのまま高校を中退。「しばらく母は家で顔を合わせても、口を利いてくれませんでした」

 あやねさんは、専門学校や通信制大学に入り、アルバイトもして必死に「普通に戻ろう」とします。しかしどれも続かず、「人生は、いつもどこかで行き詰まる」と感じるようになりました。

 24歳のころ、とうとう頑張りきれなくなり、長いひきこもり生活に入ります。

外では愛想がいい半面、家庭ではヒステリックな母

 あやねさんが人生で最初に「顔色をうかがった」人は、母親でした。

次ページから読める内容

  • やりたいことが見つからない 暴れる娘、見て見ぬふりの母
  • 船旅が動き出すきっかけに。母親にも変化が
  • 子どもには、意思を伝える権利がある

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