もし、わが子が家にひきこもったら――?

子どもが学校に行きたがらなかったり、子どもの友人関係がうまくいかなかったりした時、ふとこんな考えが頭をよぎる親は多いのではないでしょうか。

ひきこもり当事者の中には、不登校の経験者が少なくありません。内閣府のひきこもりに関する調査でも、49人中9人がひきこもったきっかけの一つ(複数回答)に不登校を挙げました。

今回登場する男性は、中学2年の時から不登校になり、26歳まで10年以上のひきこもり生活を送りました。そのきっかけは何だったのでしょうか。そして、時を戻せるなら、彼が今、あの時の両親に伝えたいメッセージとは

 横浜市内で暮らすトシさん(仮名)は、いじめがきっかけで14歳の中学2年の時から不登校になり、26歳まで10年以上のひきこもり生活を送りました。「中学校と同級生が、自分を部屋に閉じ込めた」と語ります。30代後半を迎え、自立して暮らす今もなお、社会との違和感を抱えています。

活発だった幼少時代、中1で生活が暗転

 「小学校までは友達もいたし、時にはけんかもしたしで、元気な子だったと思います」

 トシさんは穏やかに語り始めました。笑みを絶やさない、優しい物腰の男性です。

 実家は首都圏近郊のベッドタウン。両親や妹、祖父母と暮らしていました。物静かなサラリーマンの父と、専業主婦の母に優しい祖母。当時は、家族関係に大きな問題はありませんでした。勉強も得意で、成績表は毎回、5段階評価の「5」と「4」が並びました。しかし中学1年の時、意地の悪い同級生に目を付けられ、生活が暗転します。クラス中に嘘を言いふらされ、担任も同級生の肩を持ちました。このため、友人たちが次第に離れていったのです。

 2年に進級すると、いじめ常習犯のグループが「トシがナイフを振り回した」とでたらめを言い、教師たちも同級生もそれを信じ込みました。「その結果、クラス中に『トシはいじめてもいい』と容認する空気が生まれたんです」(トシさん)。剣道部の生徒に棒で殴られるなど、暴力はエスカレート。10人くらいに馬乗りで押し潰されて「圧力で本当に眼球が飛び出る、と思ったこともあります」。

 テニスのラケットで頭を10発以上殴られた時は、帰宅して泣きながら家族に訴えました。しかし両親は、さほど問題視しなかったといいます。「表面上は普通に登校していたので、深刻さが伝わらなかったのだと思います。自分自身すら当時は、不登校になどならないと思っていました」。しかし実際は、学校まで歩くのもつらい状態。「糸が切れた操り人形みたいに、何もする気が起きませんでした」

夏休み明けに不登校に 同級生が怖く、家でも身を縮める

 中学2年の夏休み明け、とうとう登校できなくなり「おなかが痛い」「体調が悪い」と理由をつけて休み続けました。驚いた母親は毎朝、「朝だよ! 起きて! 起きて!」とヒステリックに叫びながら、息子の布団を剥がそうとしました。しかしトシさんは動けません。