「どん底」だった22歳の時、自分をさらに痛めつけるかのように、中学の卒業アルバムを開きました。「中学と同級生が自分の運命を変え、この部屋に閉じ込めた」。激しい憎しみが噴き出し、アルバムを何度もたたいた後で壁に投げ付けました。壊れたアルバムから加害者たちの写真を探し、目を刺して捨てたといいます。「自分はもう、大学に行き、働いて両親を支えることなど、どう頑張ってもできない。加害者たちやいじめに加担した教師、そして学校全体を憎んでいました」

「同級生のいない街」に安心 故郷離れ一人暮らし始める

 しかしこの後、トシさんに少しずつ、外の世界で「リアル」を体験したいという思いが芽生えます。23歳の頃、好きなゲーム音楽のコンサートがあるとネットで知り、行くことを決意。親に電車賃をもらって電車を乗り継ぎ、道に迷いながらも会場を目指しました。

 知らない街を歩いていると、トシさんの心は「ここには、いじめた連中は誰もいない」という安心感で満たされました。この時から、故郷を離れて暮らしたいと、強く願うようになります。26歳の時、都内で一人暮らしを始めました。職業訓練を受けて福祉系の入門資格を取り、仕事にも就けました。働き始めた頃は「毎月お金をもらえて、だんだん任される仕事も増え、新鮮でうれしかった」といいます。親からの資金援助も不要になり、貧しいながらも経済的に自立できました。

 しかし、ひきこもり生活から一転しての週6日勤務で無理を重ね、心身の余裕を失っていきます。上司や同僚との関係がぎくしゃくし、4年半で退職。次の職場も、先輩から厳しい叱責を受けて抑うつ・不安障害と診断され、1年足らずで休職しました。トシさんは「要領が悪い上にコミュニケーションが不得手で、顧客の話を聞かずに自分の話ばかりしてしまう」欠点が、自分にあるといいます。「何度就職してもうまくいかない。人と関わるのが苦手なのに、仕事を続けられるのだろうか」と、悩むようになりました。

ひきこもりの仲間が生きる支え 初めて過去に向き合う

 追い詰められた心を癒やしたのが、ひきこもりの仲間たちでした。