完璧な準備ができなくても、「これで大丈夫」と思えるように

 私はもともと完璧主義なところがあって、セリフを覚えるのは当たり前、役の職業にまつわる本を読んだりして準備するのも当たり前、現場では求められたことにすぐ対応できるのも当たり前というふうに考えていました。けっこうピリピリした空気を出していて、ストイックだったんです。

 でも、子育てをしながらではどうしたって以前のようにはいきません。まず、セリフを覚える時間がない。台本を開いても子どもがチョロチョロと邪魔してくるし、夜、お風呂に入れてご飯を食べさせて、「ああやっと寝付いた、台本!」となった頃には眠気が襲ってきて、覚えも悪くなります。特に子どもが二人になってからは、完璧に準備して現場に行きたい気持ちとできない現実との間で、精神的に追い詰められたこともありました。でもあるとき「このままではよくないな」と気付いたんです。

 ピリピリしている私を見ていたら夫も嫌な気持ちになるし、家族に迷惑が掛かります。自分の仕事の時間を確保するために、子どもに「早く寝なさい」っていうのもおかしな話です。家族といるときは、みんなが穏やかな気持ちで笑っていられたほうが楽しいじゃないですか。そう思うようになってからは、頑なだった気持ちが柔らかくなってきたというか、「これで大丈夫」と思えるようになりました。

 手を抜いているわけではないのですが、何もかも以前と同じようにできなくても、自分を許せるようになりました。それがいいことなのかどうかはまだ分かりませんが、「何で私はあれができなかったんだろう」といつまでも考えていたら、次の仕事にも悪影響が出ます。自分ができるところまでは最善を尽くした。今度は次の仕事に向けて頑張ろう、前を見ようと意図的に切り替えるようになってからは、いろいろ楽になりました。

 ずっと近くで私を見ている茉奈が「子どもが生まれてから、すごく丸くなったよね」って言うくらいなので、本当に変わったんだと思います。

(取材・構成/谷口絵美 写真/鈴木愛子)

三倉佳奈(みくら・かな)
三倉佳奈(みくら・かな) 1986年大阪府生まれ。10歳のときに、双子の姉、茉奈と共にNHK連続テレビ小説『ふたりっ子』に出演。双子のヒロインの少女時代を演じ、「マナカナ」として全国的な人気を集める。2008年には茉奈と共に再びNHK連続テレビ小説『だんだん』に出演、ヒロインを務めた。芸能活動の傍ら学業にも励み、関西学院大学社会学部を卒業。テレビや舞台など多方面で活躍している。2012年に結婚、4歳の娘と2歳の息子のママ。