日経DUAL創刊時から、連載「ママ世代公募校長奮闘記」を執筆してきた大阪市立敷津小学校・元校長の山口照美さん。2016年4月からは公教育に関わる職務に就き、DUALでも「山口照美 20年後の未来を生きる力を育てよう!」で熱い言葉を届けてくれました。そして、2018年1月からは、大阪市生野区の区長として、子育て世代だからこその「まちづくり」を考えます。

* 本連載の最後のページには、《区長に質問!コーナー》があります。行政に対する素朴な疑問に山口さんが答えます。ぜひご覧ください。

 目黒区で5歳児が虐待され、痩せ細り、亡くなった。マスコミが大々的に取り上げ、皆が憤り、国や自治体も動き始めている。「かわいそう」「許せない」「私が引き取ってあげたかった」と思った人、話した人もたくさんいるだろう。……そして、人は忘れていく。

 谷川俊太郎の『事件』という詩がある(『落首九十九 谷川俊太郎 これまでの詩 これからの詩』岩波書店)。

 事件が起こると、マスコミも世間も話題にする。評論家が分析し、無関係な人も興奮する。しかし、時が経てば、皆、事件を忘れていく。「死」があったことも忘れる。

 「忘れることは事件にならない」。最後の一行がいつも胸に刺さる。虐待死は繰り返され、話題になり、みんなが憤り、そして忘れる。だから、忘れる前に「できること」を一人ひとりがしなければ、何も変わらない。

区内小学校の80周年記念式典で、子どもたちが夢を乗せて風船を飛ばしていた。すべての子どもが健康で、安心して暮らせるまちを作らなければと思う
区内小学校の80周年記念式典で、子どもたちが夢を乗せて風船を飛ばしていた。すべての子どもが健康で、安心して暮らせるまちを作らなければと思う

「養育里親」を知っていますか?

 できることの1つとして、「里親のなり手を増やす」というものがある。

 虐待死が起こる原因に、一時保護所は長期で預かることはできないため、里親か児童養護施設に移す判断が必要になり、そこで、受け入れ先がいっぱいだと、リスクは残っていても「家庭に返す」という選択をせざるを得なくなる、ということがある。

 また、一時保護をすると、子どもが幼稚園・保育園や学校から切り離されてしまう。保護者の方が地域から切り離されている場合は、できるだけ子どもの環境は変えないほうがいい。いきなり友だちや慣れた地域から、見知らぬ場所に行く不安よりは、安全を確保されたうえで、地域の里親家庭からいつもの学校や幼稚園・保育園に行けるほうがいい。

 ここで「里親」と聞いて、描いていたイメージと違う人は多いと思う。私も、里親は小さな子どもを引き取って、大人になるまで育てあげるものだと勘違いしていた。実際は、里親には「親族里親」(事情があって親と暮らせないこどもを、身内が引き取って育てる)、「特別養子縁組」(乳幼児を引き取り、養子縁組をして実子として育てる)、「養育里親」(短期または長期、保護が必要な子どもを預かる)といった分類がある。中でも、虐待や保護者の病気・経済事情などの理由によって、子どもを受け入れる「養育里親」が足りない。

 圧倒的に足りない。

 例えば、一人親で近所に頼れる身内がいない中、入院が必要な病気になったとする。そのとき、同じ地域に養育里親がいれば、行政からの紹介で子どもを預かってもらい、保育園に送り出してもらえる。子どもは親がいない不安はあるが、いつもの環境で生活ができる。こうした数日、数週間の短期の預かりもある。