日経DUAL創刊時から、連載「ママ世代公募校長奮闘記」を執筆してきた大阪市立敷津小学校・元校長の山口照美さん。2016年4月からは公教育に関わる職務に就き、DUALでも「山口照美 20年後の未来を生きる力を育てよう!」で熱い言葉を届けてくれました。そして、2018年1月からは、大阪市生野区の区長として、子育て世代だからこその「まちづくり」を考えます。

* 本連載の最後のページには、《区長に質問!コーナー》があります。行政に対する素朴な疑問に山口さんが答えます。ぜひご覧ください。

区長になって一番つらい仕事は、小中学校の統廃合

 生野区長になって、1年半。一番つらい仕事は、小中学校の再編(統廃合)だ。教育委員会と連携して方針を決め、地域や保護者と話し合い、1学年1クラスの小規模校を解消していく。自分自身が、「小さな学校・大きな家族」を合言葉に学校運営に取り組んだ校長だっただけに、しんどい。「学校を無くしてほしくない」という反対の声に、胸が痛む。罵倒され、話し合いが進まず、落ち込んで帰る日もある。私だって、3年間任された小学校を愛していた。

 一方で、学校現場が分かっているからこそ、言えることがある。6年間クラス替えがないことが、子どもにどんな影響を与えるかは、よく知っている。2学年一緒にしないとできない運動会の演技、合奏や合唱。人間関係が家族的になりやすく、中学に行ってから複数の学校が集まったときに「一から仲良くなる」社会的スキルが弱く、不登校になるケースが多い。それでも、力のある教員がしっかり教えているうちはよかった。新任教員が、小規模校にやってくると1人で「学級担任=学年主任」になってしまう。

 本来はベテランや先輩教員が、3年生なら3年生の、5年生なら5年生の「学年だより」や「校外学習」をどうするか、「算数の授業」はどう進めるか、「次の理科の実験」をどうやって指導するかを教えてくれる。その中で、若手教員も育っていく。しかし、単学級では育てられない。私も校長時代に、育てるための工夫はしたが、限界を感じていた。校長同士は、会えば「どこかに講師いない?」と声を掛け合う。産休や病休の教員の穴が埋まらなくなってきている。担い手不足、教員不足がじわじわと現場に広がっているのだ。

公教育や福祉を維持するには税収が必要となる。生野区内の中学校で「納税教室」の講師役となり、生野区の税収が低い現状や解決策についての授業を行った
公教育や福祉を維持するには税収が必要となる。生野区内の中学校で「納税教室」の講師役となり、生野区の税収が低い現状や解決策についての授業を行った

 生野区では子どもの数がピーク時から75%も減っているのに、小学校は1校も減っていない。1学年の児童が6人という学年もある。12の小学校のうち、11校が、ほとんど単学級になりつつある。これは全国で起こっている現象で、読者の方の中にもまさに地元で学校統廃合の話が起こっている地域もあると思う。そのとき、お願いしたいのは「保護者としての意見」をしっかり伝えてほしいということだ。小規模校は、PTAの人数も少ない。説明会をしてもPTA役員以外の保護者が集まってくれない。結果的に、地域で力を持つ高齢の方の意見がメーンになる。