『さしすせその女たち』 今回の主な登場人物
土曜日は昼前まで寝てしまった。途中、颯太がぐずったので何度か目を覚ましたが、結局起きたのは11時近かった。
呆れたのは秀介だ。多香実が起き出したとき、秀介はまだ杏莉と一緒に眠っていた。杏莉が寝ているのはわかる。夜中に起こしてしまったし、弟の颯太が救急車に乗せられる姿を目にしたのだ。小さい身体に、とてつもなく大きな負担がかかってしまっただろうと思う。ゆっくり寝てくれたほうが、多香実も安心だ。
けれど秀介が、うかうかとこんな時間まで寝ているのはおかしいんじゃないだろうか。颯太のことが心配ではないのだろうか? 救急病院から帰ってきたとき、たとえそれまで寝ていたとしても、気になって起き出してくるのがふつうではないか? 颯太がけいれんしている最中は、多香実を罵倒するほどあせっていたのに、どうして何事もなかったように眠っていられるのだろうか。
少しすると、杏莉が起き出してきた。
「おはよう、杏莉」
「颯太は? 颯太は? どこにいるの」
心配そうに聞いてくる。
「まだ寝てるよ。インフルエンザだったのよ。もう大丈夫だからね、安心して」
「ああ! よかったあ!」
大きな声と大きな笑顔で杏莉が答える。多香実は杏莉を抱きしめた。
「でもね、インフルエンザはうつったら大変だから、なるべく颯太の近くには行かないでね。必ずマスクもしてね」
「うん、わかった」
杏莉がうなずく。昨夜の騒動を見て、なにか感じるところがあったのだろう。杏莉は素直にマスクを着けてくれた。
杏莉と二人で朝食兼昼食を食べていると、秀介がようやく起き出してきた。
「頭いてえ……」
開口一番そう言って、浄水器の水をがぶがぶと飲む。
「颯太どうなった?」
キッチンカウンターの向こう側からたずねてくる。瞬時にカッと、頬が熱くなった。どうなった? とは一体どういう意味だろう。一体どんな神経の父親が、そんな言葉を吐くのだろうか?