「育児の実行」は人間としての成長につながる

林田香織さん
林田香織さん

林田 なぜ「協働の計画と実践」と「家庭外との連携」を行うと、リーダーシップの向上につながるのでしょうか?

浜屋 まず「協働の計画と実践」とは、家庭内で役割分担しながら育児や家事を切り盛りすることです。そこに自ら積極的に関わることは、子どもの気持ちや夫婦のスケジュール、預け先の制約条件など、全体を見渡して物事を考えるという訓練になることでしょう。

 そして「家庭外との連携」については、私の場合、夫婦だけでは立ち行かないという状況に直面して、友人、親族、病児保育なども含めて、思い切って他人に頼るという経験を半ば強制的に積めたことは、人を信頼して任せることの訓練になったように思います。また、子育てをしていると、園や地域の多様な人たちと一緒になって何かの活動を推進するような機会も出てきます。

 私の研究は、共働き育児の各要素と仕事上の能力との関係をアンケート結果から分析したものであり、どのような具体的経験が効いているかを調査してはいません。しかし、こうした経験ベースの学びが、リーダーシップの向上につながっている可能性があると考えています。

林田 もう一つ、体制づくりとは別に育児の構成要素として「育児の実行」という項目がありますが、これは仕事への影響は見られなかったのでしょうか?

浜屋 「育児の実行」とは、人を巻き込まないで直接自分が一人で行う育児のことです。オムツ替えや入浴などのお世話や、食事の準備や掃除などといった、育児と不可分な家事ですね。これは「リーダーシップの行動の変化」にはプラスの影響が見られなかったのですが、人格的発達、特に「自己抑制」についてはプラスに影響していました。

林田 「自己抑制」とは、自分自身をコントロールする能力ということですよね。人として成長できるということは、「育児の実行」を通して、仕事をするうえで必要な資質を養っているとも言えそうですね。

浜屋 そうですね。仕事能力そのものではありませんが、人として成長することは、当然仕事にも役立つと思います。やはり、人としての包容力や芯の強さがある人にはついていきたいと思いますから。

林田 この傾向は、男女間で違いはあるのでしょうか?

浜屋 体制づくりに前向きに関わっているかどうかという点をみると、やはり女性のほうが積極的です。ただ、積極的な人だけをみると、男女問わず、リーダーシップ行動にポジティブな影響が見られました。先ほどの三つの要素の中でも、積極的な人は性差に関係なく、良い影響があるということです。

林田 女性のほうが体制づくりに積極的ということの背景にあるのは、やはり夫の長時間労働や性別役割分業意識の影響でしょうか。

浜屋 現状では、夫の長時間労働でやむを得ず妻が育児や家事の大部分を担うというケースが多いですね。ここは、皆さんが認識している通り、関係者が一体となって取り組んでいかなくてはいけない重要課題だと思います。ただし、それに加えて、妻の側のジェンダー意識の中で、「私がやるべき」と思い込んでしまって、一人で抱え込みがちということも要因としてあると思います。

林田 自分一人で抱え込まず、最初から「夫婦で」という意識を持つことが重要ということですね。育児の体制づくりのタイミングやコツについては何かあるでしょうか。

浜屋 体制づくりのタイミングは、早ければ早いほどいいでしょう。女性はせっかく育休から復帰しても、1年未満で離職してしまうという人が多いんです。これは裏返せば、最初の1年を乗り切れば就労の継続性が高まるということ。つまり、復帰後最初の1年を越せるかどうかが鍵なのです。

 子育てが落ちついた後に再就職すると、残念ながら賃金水準が大きく低下することが多い現状では、妻の離職は、家計の面でも大きな損失です。共働きで家庭生活を運営していこうと考えるのであれば、復帰前に共働き育児のためのインフラを構築することが大切です。特に、妻が育休中、一手に担いがちな保育園探しは重要なポイント。共働きでやっていくための準備なのですから、そこから夫婦でやっていくのが望ましい形だと思います。私がリサーチする限りでも、保育園探し段階から一緒にやっている夫婦は、チームの立ち上がりが早い印象があります。