家庭の充実は仕事のパフォーマンスにプラス

林田 内閣府の調査でも、仕事と家庭は否定的なことだけではなく、肯定的なことも影響(スピルオーバー)すると報告しています。具体的には「職務満足(仕事キャリア)」や「仕事のパフォーマンス(出来具合)」にプラスに影響する傾向があるということです。

内閣府 仕事と生活の調和推進室(平成23年)「『ワーク』と『ライフ』の相互作用に関する調査報告書」
http://wwwa.cao.go.jp/wlb/research/sougo/sougo.pdf

 このようにポジティブなこともたくさんあるのに、どうしても両立や子育てを語るときには、「ワンオペ育児」のようにネガティブな影響にフォーカスしがちです。浜屋さんの研究は仕事と家庭のポジティブな影響を定量的に測ることで、相乗効果に注目できるということですね。

浜屋 育児が仕事に及ぼすネガティブな影響は確実に存在していて、取り上げる必要がある課題です。ただ、あれもこれも研究することはできない。ならば私は、あえて研究が不足している仕事と育児のポジティブな関係のほうからアプローチしたいと考えました。

 本の出版のタイミングと“ワンオペ育児”が注目されたタイミングがたまたま重なったのですが、私が研究テーマを考え始めたのは3年以上前で、まだワンオペという言葉は使われていませんでした。研究するに当たって「共働きの育児」を改めて考えたときに、家庭外の要素も盛り込む必要性を感じ、「チーム育児」としました。自分自身の経験からも、他者との連携は共働き育児に欠くことができない要素だということは分かっていましたし。

 調査に当たっては、私自身の共働き育児経験を振り返るとともに、複数の共働き男女にヒアリングを行いました。それを元に、私たちの「育児の行動」とは何かを考えたとき、家庭内での役割調整や、子どもの学校や行事予定の管理や伝達、また先生方とのコミュニケーションなど、自分以外の誰かとの「体制づくり」が大きな部分を占めていたんです。働くために人に子どもを預ける、家事、育児を人と連携して行うからこそ発生する、新しいタイプの育児であると感じました。なので、これを盛り込まないと共働きの育児を捉えたことにはならないと思ったんです。

林田 つまり、アウトソーシングをすることで発生する「新家事労働」の部分ですよね。これ抜きには共働きの育児は語れない、ということですね。これまでは家事育児というと、登場人物は「妻」が中心で、次に「夫」、あとは「じいじ」「ばあば」が出てくるくらいでした。

 しかし夫婦共働きでの育児においては登場人物が他にもいて、構成要素も子どもの世話以外の部分があるということですね。浜屋さんご自身の仕事と育児の両立は、もともと連携型のチーム育児だったんでしょうか?

浜屋 いえ、実は、初期のころはワンオペ気味だったと思います。第一子を産んだ当時、夫は仕事を頑張らなきゃ! というほうに意識の大部分が向いていたそうで、仕事は長時間労働、出張も多く、朝の保育園への送り以外はほとんどできない状況でした。

 また、私自身も家事育児を一人で抱え込もうとしていた面があると思います。恥ずかしながら、当時は家事も育児も仕事もなんでもテキパキこなすカッコいいワーキングマザー像に憧れていて、自分一人でどう工夫してすべてをそつなくこなすかに頭が向いてしまっていました。夫や周囲とどう連携するかという発想は、ほとんど頭にありませんでしたね。