「育児は仕事に役立つ」ということをデータで証明

林田 「Teamわが家」のコンセプトを説明すると、みんな何となくいいことだと感じてはくれるのですが、明確にいいと言えるだけの根拠がやや欠けていました。それを、浜屋さんが定量的に証明してくれたことで裏付けを得ることができて、私としても本当に興奮しました。

 ところで浜屋さんが研究するためにわざわざ仕事を辞めて大学院に進学されたというのは、どんな理由があったんでしょうか?

浜屋 理由は大きく二つあります。一つ目は、「育児の経験が仕事に役立つ」ことをデータで証明したかったんです。それに類するようなインタビュー調査はいくつかあったのですが、数字で定量的に証明した先行研究はなかったので、「ないのなら自分で調査してみよう」と思ったことがきっかけです。

 もう一つは、職場の影響です。私の勤務先は社会人向けの経営教育事業を行っているのですが、仕事を終えてから教室に駆けつける方々を見て、「私自身は学べているのか」という疑問が芽生えてきました。長い人生を考えたとき、まだまだ働き続けるだろうに、既に自分が“出がらし”になりかけているような気がして。働き続けるためには、そろそろ新たなインプットが必要だという焦りを感じたんです。

林田 まだお子さんが小さな年齢で仕事を辞めて大学に行き直すというのは、勇気がいる決断ではなかったですか?

浜屋 上の子が小学校にもやっと慣れてきた頃でしたね。まだ手放しとは行きませんが、それでも子育てが少しは落ち着いたタイミングでした。かなりの思い切りが必要でしたが、中学校への進学、下の子の小学校入学、あるいは親のことで次の波が来る前の今しかない、と飛び込むことにしたんです。

林田 なぜ「仕事と育児の関係」を研究テーマにされたんですか?

浜屋 ずいぶん昔のことになってしまうのですが、大学時代にオランダに留学したときに見た、オランダの人たちが家庭と仕事のちょうどいいバランスの中で幸せそうに暮らしている光景が印象に強く残っていました。夜間や日曜日は街中のお店が閉まっていて、家族で散歩していたり。根っこをたどるとそれが私の原体験としてあって、その後私も仕事を始めて子どもも生まれ、“仕事と育児が調和した関係”ということがより身近なテーマとなったんです。

 ネガティブな面では、日本で子育てしながら働くことの厳しさ、難しさも目の当たりにしてきました。友人にマタハラで仕事を辞めた女性がいたり、夜遅くまで仕事している同僚に後ろ指を差されそうで、自席に置きカバンをして会社に残っているフリをして保育園にお迎えに行っていると打ち明けてくれた男性がいたり。そういう経験から、「育児の経験は仕事にも役に立つ」ということを、データではっきりとみんなに伝わる形で示せれば、当事者にとっての自信、周囲の理解や職場環境の改善、ひいてはみんなの“幸せの後押し”になるのでは、と思いました。

林田 確かに、「子育ての経験が仕事にも役立つ」ことをデータで証明できれば、子育ての当事者が幸せになるだけではなく、企業にとっても両立支援や働き方改革を推進するうえで納得感がありますよね。

浜屋 そうなんです。実は、このテーマは私の本業とも密接に関係しています。現在、私は企業の人材マネジメントやダイバーシティ・マネジメントなどの教材の開発といった、経営教育のサポートをしています。子育ての経験を含め、職場外での経験によっても日々成長している個人を、企業はどのようにマネジメントしていけばよいのか、ということを考えるときに、今回の調査の内容は大きなヒントになると思っています。