学校に行くことは子どもにとってゴールなのか?
保護者の方にまず、一度立ち止まって考えてほしいのが、そもそも学校に行くのがゴールなのかということです。学校に行くといっても、大事なのは学校で何をするのかということです。そのイメージがない子に『学校へ行こう』という課題を設定しても、動機がなければ学校に行ったところで続きません。
例えば、食べるのが大好きで、学校の給食を楽しみにしているのなら、それも学校に行く動機のひとつです。けれども、そういうわけでもないし、勉強をしたいわけでもなく、同級生とも話が合わない。そういう子が『どうして学校に行かないといけないの?』と思ってしまうのも無理はないのです。
子どもの願いと、学校に行く動機が重なる時期を長い目で待とう
子どもが置かれている状況をよく見て、この子は人とつながることが大事だなと思ったら、人とつながれる場所に行けることのほうが大事なので、行先は学校と限定する必要はありません。例えば、「一緒に児童館に行ってみよう」「公園に行ってみよう」というゴールを設定してもいいと思います。そのように小さいステップを積み重ね、本人の中に学校に行く動機が見えてきたら、そのとき初めて学校に行くというゴールを設定すればよいのです。
私が不登校の子どもと接するときは、「ゲームがしたい」という子がいたら、「そっか、じゃあゲームをしようか」と言って、とことんゲームをします。初めは「ただゲームがしたい」という‘願い’を叶えている状態ですが、遊んでいるうちに「このゲームはふたりでプレイしてもつまらないからほかの誰かと対戦してみたい」というふうに願いが変わってきたりします。願いと動機が重なる時期が来て、「児童館に行けばほかの人と対戦できるかも」とちょっと外に出るきっかけとなるのです。
もちろん、一足飛びにはいきませんが、次第に「もっと人とつながりたいから学校に行ってみよう」などというように、子どもの願いと動機は変わってきます。
動機となるものが何なのかは、本人にも分からないので、僕たちはまずその子の目の前にある願いに向かって、動いていきます。その中で、これなら最終目的の学校に行きつけるかもしれないというところにアンテナを張っていくのが僕たちの役割です。しかし、その子の心の中が見えるわけではないので、最初からゴールに直結するプランはできません。目の前のものをクリアしつつ、ちょっとずつ進め、戻るときがあるかもしれないけれども、ちょっとずつ変化を起こしていく作業をしています。
そして、学校をゴールに設定する日が来ても、最初から教室に行って、自分の席に座るなどという目標は掲げません。中学生なら、まず制服を着ることから。小学生ならパジャマから服に着替えることができればOKくらいのところからスタートします。
そんなことに何日もかけるの? と思われるかもしれませんが、小さいことでいい。よっしゃ、できた。よし、これでOK! あとは何の制約のない一日を過ごせるよ。これを積み重ねることで、子どもの中にはどこかで頑張れた経験ができ、やらなければいけないことからの解放されて、少しは安心感が生まれるでしょう。
不登校を解決する特効薬はありません。どうか長い目で見てあげてください。
(取材・文・構成/小山まゆみ、イメージカット/鈴木愛子)