2学期が始まって間もない9月上旬の午後、東京都下で不登校に悩む親向けの無料セミナーが行われました。タイトルは「『わが子がプチ不登校だ』と感じたら…」。「プチ不登校」という言葉にドキッとした読者の方もいるのではないでしょうか。学校に全く行かないわけではないけれど、ときどき休みたがる。強いれば登校するけれど、なんだかつらそう。2学期に入り、子どもがそんな様子になっていませんか? 不登校というと、中学生や高校生の問題と思うかもしれませんが、実は、小学生の不登校児数は昨年、過去最高になりました。しかも、平成25年度から3年連続で増加しています。もう、よその家の問題ではないのです。

日経DUALでも2017年8月に不登校児と親に向けた特集を組み、大きな反響がありました。不登校児が増え続ける背景にはどんな問題があるのか、親の取るべき対応は? 学校以外の支援にはどんなものがあるのか。不登校の問題には色々な要素が絡んでいます。そんなことを探るべく、セミナーの様子をリポートします。

「『わが子がプチ不登校だ』と感じたら…」セミナー報告
(上) 不登校の親はSPにならず、子を家で安心させて 
(下) 不登校親の心得「子から離れ自分の楽しみ探そう」

 セミナーでは、様々な立場から不登校に関わるプロフェッショナル5人のパネルディスカッションが行われました。コーディネーターは、本誌編集長の羽生祥子です。

パネリスト
黒沢正明さん
八王子市立高尾山学園校長。企業勤務を経て、平成24年(2012)年度八王子民間人校長公募により、平成25(2013)年度から現職。登校したくてもできない児童・生徒のために設立された公立の小・中一貫校(不登校特例校)の学校長として、子どもたちをサポートしている。

斎 典道さん
NPO法人PIECES」理事で、スクールソーシャルワーカー。日本福祉大学在学中より国内外の社会的養護・地域子育て支援の現場でフィールドワークを実施。2012年、デンマークで北欧の社会福祉を学ぶ。大学在学中にNPO法人PIECES設立に参画。独立型ソーシャルワーカーという新たな道を切り拓いている。不登校や引きこもりの現場では、子どもたちの気持ちを理解してくれるお兄さん的存在。

蟇田 薫さん森本多美子さん森裕子さん
いずれも認定NPO法人 育て上げネットが運営する家族会「結」の相談員。「結」ではつまずいた若者たちの家族を支援し、子どもの自立のために今できること、生活の中から始められる具体的なことなどを、悩める保護者とともに考え、提案するコンサルティングを行っている。

コーディネーター
日経DUAL編集長 羽生祥子
今回のディスカッションでコーディネーターを務めた。プライベートでは小5と小3のママ。他のパネリストと違い、“不登校と引きこもり”に関しては壇上で唯一の素人。不登校気味だったり、不安にさいなまれているお父さん・お母さんを身近に見ている経験から専門家に質問を繰り出した。

右から黒沢先生、斎さん、蟇田さん、森本さん、森さん、羽生
右から黒沢先生、斎さん、蟇田さん、森本さん、森さん、羽生

子どもの気持ちに寄り添うのが、スクールソーシャルワーカーの役割(斎)

 セミナーの会場に集まった皆さんは、小学生低学年から高校生くらいまでの保護者が多く、母親の姿が目立ちました。 テーマが不登校という深刻なものだけに、セミナーが開始する前は皆さん緊張した面持ちでしたが、「結」の相談員である蟇田さんが全員参加のじゃんけんゲームで場を和ませ、気持ちがほぐれたところで、セミナーがスタート。まずはスクールソーシャルワーカーの斎さんが、不登校児や学校とどのように関わっているか解説しました。※文中の敬称は一部略しています。

 「スクールソーシャルワーカー」をしております斎と申します。スクールソーシャルワーカーという職業はあまり聞き慣れないかと思いますが、集団や学校に適応できない子どもたちが増えてきた中、子どもの背景にあるすべてのことを考慮して、どこにほころびがあるのかをひもとき、適切な介入をしていく仕事をしています。

 私が持っている資格は社会福祉士といって、教員免許ではありません。むしろそれがいいほうに働いていると思っていて、学校の先生たちとは違う関わりをすることが役割かなと考えています。具体的にいうと、ジャングルジムに登る子どもがいて、上から引っ張っていくのが先生方で、スクールソーシャルワーカーは、落ちないように下から支える役割です。そして何より、子どもたちの気持ちに寄り添い、その子にはどんな願いがあって、どんな気持ちがあるのかを一緒に考えていくようなことをしています。

不登校特例校の役割は、子どもの不安を取り除くこと(黒沢)

 続いて、八王子市立高尾山学園の学校長、黒沢先生が、受け入れ校としての学校の役割を説明してくれました。

黒沢 不登校児童や生徒の受け入れ学校の校長をしております、黒沢です。うちの学校には、友達がいない、学習に向かない、教員不信に陥っている、傷つき体験をしたといった子どもたちがたどり着くケースが多いです。

 そういう子どもたちは、多くの場合、3つの不安を抱えています。この学校でうまくやっていけるかなという対人不安、ずっと学校を休んでいたけど勉強ができるようになるかなという学力不安、そして、学校を卒業したあと、自分はどういう人生を歩めるかなという不安です。この3つの不安を少しでも取り除けるよう取り組むのが、受け入れ校の役割だと思っていただければと思います。

親御さんと一緒に今できることを考えるのが「結」(結の会 森本)

 「結」の相談員、森本さんは自己紹介を兼ねて、活動内容を紹介してくれました。

森本 不登校・引きこもりの子を持つ親の会「結」の家族支援をしております森本です。不登校や引きこもりでなど、なんらかの形でお子さんが問題を抱えていると、親御さんは「自分の育て方が悪かったのではないか」など、自責の念に駆られていることがほとんどです。けれども私たちは、親がこうだったから子どもが不登校になったのだとか、親がこうしてやらなかったから引きこもりになったのだとは考えていません。お子さんは自身の特性や家庭環境、学校での環境など、色々なことが複合的に作用して、今は足踏みをしているのかもしれません。でも、これが一生続くわけではなく、お子さんには今、足踏みをしている必要があるのでしょうという考え方です。そのような視点から「今できることをやりましょうね」と、親御さんを支援しているのが「結」の活動です。

家族の気持ちに立って話ができる相談員を目指している(結の会 森)

 同じく「結」の相談員、森さんはご自分の活動内容をこのように紹介してくれました。

 「結」の相談員をしております森と申します。私生活では4人の息子の母親で、私自身もニート・引きこもりの親を経験しました。わが子が学校に行かなくなり、すったもんだしたときに、嫌がる夫を無理に連れ出し、地域の学校の先生のところへ相談に行ったことがあります。そのとき先生は「お父さん、あなたはお子さんを救うために仕事を辞める覚悟はありますか」とおっしゃいました。気持ちは分からなくはないけれど、夫が仕事を辞めたら、後の子どもはどう育てるの? 私たち家族はどうすればいいの? そう思い、日常生活で役に立ち、その人の立場になって話ができる相談員になりたいと思ったのが、相談員になったきっかけです。ですから、今でも日常生活にこだわって、相談を受けることを基本にしています。そして、楽しくお話できたらと思っています。

お母さんひとりで悩まず、一緒に考えていきましょう(結の会 蟇田)

蟇田 同じく「結」の相談員の蟇田と申します。かつては不登校や引きこもりは家族の責任や本人の自己責任だという風潮がありましたが、今は違います。行政や私たちのようなNPO法人を含め、色々な支援があります。「結」はお母さま中心の相談を受ける団体で、このようなセミナーを通し、皆さんの心配や不安を一緒に考え、解決していきたいという思いで活動を続けています。今日はどうぞよろしくお願いします。

羽生 経歴が多彩な皆さんにそろっていただきましたので、今日は色々な角度からお話を聞いていきたいと思います。