先回りするのではなく、子どもの今の気持ちに共感する(斎)

羽生 母親に愛情があるからこそ、子どもとしてはちょっと言い出しにくかったり、活動しにくくなることもあるのかなと思います。傾向や解決法があれば黒沢先生と斎さんにお伺いできればと思います。男性の視点から思うことがあれば、それも含めてお願いします。

 先ほど熱心な先生のお話をしましたが、お父さんやお母さんも子どもを思う気持ちが強いあまり、つい先回りしてしまうところがあるかなと思います。不登校や学校に行き渋っている子どもたちの多くは、学校に行けないことに罪悪感を抱いています。本当は学校に行かないといけないと分かってはいるのだけど、どうしても行けない。子どもたち本人はお母さんやお父さんに対しても、申し訳ないと思っていることがほとんどです。

 不登校がよくないものだという空気を少しでも感じると、子どもは「自分はダメな子なんだ」と考え、よくない自分を突きつけられているように感じます。そこへ追い打ちをかけるように「ああしたほうがいい」「こうしたほうがいいんじゃないの」などと親が先回りすると、子どもはよりダメな自分という像を、心の中に作っていってしまう気がしてなりません。

 親御さんも子どもを思う気持ちが強いからこそ、頑張ってしまうというのがあると思いますが、そこはぐっとこらえてください。そして、子どもは今、どんな気持ちなのかなと考え、学校に行きたくない気持ちに共感するというのが、何より大事に思います。

親と子が楽しいこと、うれしいこと、おいしいことを共有しよう(黒沢)

黒沢 ちょっと厳しい言い方になるかもしれませんが、不登校になる子は友達が少ない傾向があります。それから、自分をさらけ出せないタイプの子が多いように思います。言い換えると、プライドが高いので、運動が苦手だったりすると本人は学校を苦痛を感じるかもしれません。身近に相談できる大人や話し相手がいない子も多く、その子の親にも同じような傾向があります。一概には言えませんが、親子で似ているところはあります。

羽生 私もわが子に関して、親のここが似てくれたらいいなというところより、似てほしくないところが似てしまい、ドキっとさせられることがあります。せっかく世代が変わったのだから、1ミリでもいいものになってほしいと思うがゆえに、子どもにはどうしても期待してしまいますよね。

黒沢 子どもに期待するというのは、親として当然だと思いますよ。

羽生 友達が少ないとか、自分をさらけ出せないといった傾向が似てしまい、不登校になってしまうのは親としてもつらいですね。

黒沢 不登校の子が100人いたら、100通りの理由があります。その子の特性もあるので、解決方法も100通りです。ただ、不登校の子がいる家庭は、家庭だけで閉じこもってしまう傾向があるので、まずは、外に出て、色々な人と交流することが大事です。そのために、学校でもイベントを開催し、みんなでおいしいものを食べるなど 色々なしかけをしています。お父さん、お母さん方には楽しいこと、うれしいこと、それからおいしいことをたくさん見つけて、お子さんと一緒に共有してもらうと、いい方向に向かうのではないかと思います。

 親としてハッと気づかされるエピソードや、口に出せない子どもの気持ちにほろりとさせられる場面もあり、会場の皆さんも熱心に耳を傾けています。この後、トークはますます白熱していきます。リポートの前編はここまで。後編では、母親が変わることで不登校が解決した例や、パートナーとの温度差、再び登校するまでのステップといったテーマで交わされたパネリストの意見をお届けします。

(取材・文・構成/小山まゆみ、イメージカット/鈴木愛子)