『さしすせその女たち』 今回の主な登場人物
熱性けいれんは、10分ほどと聞いている。10分経てばおさまるのだ。まだ2分だ。一秒が異様に長く感じられる。颯太! 颯太! 颯太! 心のなかで叫ぶ。こっちに戻ってきて! ママの元に戻ってきて! まだ3分しか経っていない。秒針がまったく進まないような気がする。あと7分間も、この小さい身体が持つのだろうか。誰か助けて! 神様っ!
けいれんはおさまらない。颯太が颯太ではなくなってゆく。口ががくがくと動く。このままでは舌を噛んでしまう! こんな瞬き、絶対におかしい! こんなのふつうじゃない!
多香実は我が子の姿を、これ以上一秒たりとも見ていることはできなかった。たまらず119番を押す。
「すぐに来てください! お願いしますお願いします! 助けてください!」
冷静に対応してくれる交換手に向かって言いながら、多香実は涙があふれ出るのを止められなかった。
次ページから読める内容
- 初めての救急車
- 家に帰りついたのは、深夜2時過ぎだった
- ふいに自分という人間がおそろしくなる