5歳と4歳の子どもたちを育てながら、デジタルマーケティング会社で室長として働く多香実。

一見、仕事も充実し、子育ても満喫している今どきのワーママのようだが、実際は子育ても家事もほぼ自分でやらなければならない“ワンオペ状態”だ。

ある3月の深夜、息子の颯太が熱性けいれんの発作を起こした。白目をむいて体中をガクガクけいれんさせる姿に驚く多香実。夫の秀介は慌てふためき、多香実に「颯太が死んだらお前のせい」と暴言を吐き、まったくあてにならない…!

『さしすせその女たち』 今回の主な登場人物

◆米澤多香実(よねざわ たかみ) 39歳/ デジタルマーケティング会社「サンクルーリ」ソーシャルマーケティング部クライアントオペレーション室 室長
◆米澤秀介(よねざわ しゅうすけ) 40歳/食品メーカー営業職 課長
◆米澤杏莉(よねざわ あんり) 5歳/みゆき保育園年中クラス
◆米澤颯太(よねざわ そうた) 4歳/みゆき保育園年少クラス

 熱性けいれんは、10分ほどと聞いている。10分経てばおさまるのだ。まだ2分だ。一秒が異様に長く感じられる。颯太! 颯太! 颯太! 心のなかで叫ぶ。こっちに戻ってきて! ママの元に戻ってきて! まだ3分しか経っていない。秒針がまったく進まないような気がする。あと7分間も、この小さい身体が持つのだろうか。誰か助けて! 神様っ!

けいれんはおさまらない。颯太が颯太ではなくなってゆく。口ががくがくと動く。このままでは舌を噛んでしまう! こんな瞬き、絶対におかしい! こんなのふつうじゃない!

多香実は我が子の姿を、これ以上一秒たりとも見ていることはできなかった。たまらず119番を押す。

「すぐに来てください! お願いしますお願いします! 助けてください!」

 冷静に対応してくれる交換手に向かって言いながら、多香実は涙があふれ出るのを止められなかった。

<次ページからの内容>

・初めての救急車

・家に帰りついたのは、深夜2時過ぎだった

・ふいに多香実は、自分という人間がおそろしくなる

・衝撃的な颯太の姿を見たというのに・・・

次ページから読める内容

  • 初めての救急車
  • 家に帰りついたのは、深夜2時過ぎだった
  • ふいに自分という人間がおそろしくなる

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椰月美智子
椰月美智子 やづき・みちこ。1970年生まれ。小説家。02年、『十二歳』で第42回講談社児童文学新人賞を受賞し、デビュー。07年『しずかな日々』で第45回野間児童文芸賞、第23回坪田譲治文学賞をダブル受賞。その他の著書に、『るり姉』『恋愛小説』『その青の、その先の、』『14歳の水平線』『かっこうの親 もずの子ども』『フリン』『伶也と』『坂道の向こう』『メイクアップ デイズ』『明日の食卓』『消えてなくなっても』など多数。幼年童話『チョコちゃん』『チョコちゃんときゅうしょく』もある。小学5年生と3年生の男児の母。

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