職場の男性から「妻が妊娠しました」と打ち明けられたとき。「おめでとう」の後に、あなたなら、どんな言葉を続けますか?

「おめでとう。それじゃ、育休はいつからいつまで取る予定?」――男性社員に対して、そんな言葉を投げかける人は、ほんの一握りではないでしょうか。でも、もし、妊娠を告げたのが女性だったら…?

 今、日本の男性の育児休業取得率は、わずか3.16%(2016年度)と、非常に低い水準です。しかし一方で、子どもがいる男性の30%は「育休を取りたかった」と答えており、男性の意向に反して、育休を取りづらいという現実があります。

 この特集は、パパとなる男性会社員の育休の取り方から制度、育休中の過ごし方などを詳しくお伝えする「パパ育休マニュアル」です。「取りたいけれど、どうしたらいいか分からない」「周りに経験者がいなくて不安」といった悩みを持つパパ、そしてパパに育休を取ってもらいたいママも必見です。

 前回、都内に暮らす架空のDUAL夫妻に第1子が誕生し、パパが2カ月間の育休を取ったシミュレーション記事をお届けしました。今回はそれから3年後、第2子が誕生します。上の子も手がかかる中での出産、育児を夫婦でどう乗り切っていくのでしょうか。今から13年前の2004年に、経済産業省のキャリア官僚としてバリバリ働きながら、双子に続く第3子の誕生時に1年間の育休を取得した山田正人さんの解説と共にお読みください。

【「パパ育休の取り方、過ごし方」完全マニュアル】
第1回 もうパパを尻込みさせない 男性育休取得率3.16%
第2回 「育休完全ガイド」気になるお金や制度を総ざらい
第3回 パパ育休はどう切り出す? 過ごし方から復職まで
第4回 「産後の妻を全面フォロー」育休シミュレーション
第5回 「育児で仕事のスキルが磨かれる」第2子育休編 ←今回はココ!

【ファミリーのプロフィール】
夫…37歳、大手通信会社の営業職
妻…35歳、食品メーカーでマーケティングを担当
長男…3歳
結婚5年目、都内在住

1年間の育休で“専業主夫”に

 初めての育休から3年。長男もあっという間に3歳になり、にぎやかな毎日を送っている。仕事の疲れがたまった週末に、エネルギーの塊のような息子の遊び相手を務めるのはなかなか体力を消耗するが、子どもと触れ合う時間は、やはりかけがえのないものだと思う。

 そんな中、妻が第2子となる女の子を妊娠した。新たな命の訪れを夫婦で喜び合ったが、共働きでどうやって2人の子どもを育てていけばよいものか。夫婦で相談した結果、今回は思い切って僕が1年間の育休を取ることに決めた。

 息子の育休を取ったときに感じたことは、2カ月では短く、僕が職場復帰した後の妻への負担が大きかったということ。ただでさえ今回は2人の面倒を見なくてはいけなくなるのだから、状況はより深刻だ。

 加えて仕事面での事情もあった。出産時期は僕が関わっている大型案件がちょうど手を離れるころなのだが、逆に妻のほうは大規模な新商品開発プロジェクトが進行中なのだ。妻にとっては今がキャリアのうえでの勝負時だということは、同じビジネスパーソンとしてよく理解できる。僕の仕事が佳境でどうしても早く帰れない時期には、妻が息子の送り迎えや家事をほとんどやってくれた。だからこそ、今度は僕が引き受ける番だと思う。

 妻は産後休業のみで職場復帰し、僕が1年間、“専業主夫”となることにした。しばらく収入は減るが、半年間は給料の67%、それ以降も50%の育児休業給付金が支給される。社会保険料が免除されたり、所得税が非課税になったりするため、手取り額はそれ以上だ。多少は貯蓄もあるし、なんとかなるだろう。

 上司に1年間の育休を取りたいと話すと、「えっ」と一瞬固まっていた。育休自体は周りでもちらほら男性社員で取る人が出始めているので、以前ほど驚くことではないはずだが、やはり1年というのはまだまだレアなのだろう。とはいえ、女性が1年間育休を取ることは珍しくないことなのだから、本来は男性が取ってもおかしくないはず。今回は特に妻がすぐ職場復帰したい事情があり、わが家にとってはこれがベストの選択であることを話すと、上司も「なるほどな」と分かってくれたようだった。

 同僚の反応も、驚かれたり心配されたりと何やら微妙なものが多かったが、その中で女性社員たちからは「やるねえ、頑張って!」と好意的な声をかけてもらった。背中を押してもらえた気がして、うれしかった。

 職場よりも拒否反応が大きかったのは、僕の実母だった。いわく、「あなたがそこまでする必要あるの?」。専業主婦として生きてきた母にすれば、恐らく想像もつかないことだろうし、言葉に悪気がないことは分かる。とはいえ、理解してもらうのは一苦労だった。

(山田正人さんの解説)
 男性で育休を取った人と話すと、男性の両親、特に母親が拒否反応を示すという声をよく聞きます。専業主婦で子育てをしてきた人は、「なんでうちの息子のお嫁さんは育児をしないんだろう」と思ってしまう。私の両親は今から考えるとすごくリベラルな人だったので、賛成してもらえたのはラッキーでした。

 また、私が1年間育休を取った2004年当時は、世の中の空気として「男性が育休を取ったら出世はアウト」というイメージがありました。だからこそ、私が育休を取ることが世間や組織の常識を覆すきっかけになるかもしれない、という思いもありました。

 あのころとはずいぶん世間の雰囲気も変わってきたとはいえ、今もそうした意識が完全に消えたわけではないでしょう。「あいつは休んでずるい」とか「育休を取った人はマイナス評価が付いて当然」みたいな価値観がある会社だと、制度としては当然の権利であっても、やはり実際に休むのは難しい。そこは組織のトップが「そうではないんだ」ということを発信してほしいと思います。

<次のページからの内容>
・同時多発的に発生する育児タスクに右往左往
・予防接種はプロジェクトマネジメントそのもの
・タイムマネジメント能力が向上
・職場復帰前にはアウトソーシングのサービスをチェック