いい歯並びのためには、乳歯時代からむし歯にしないことが大前提。乳歯が早期に抜けたり、ひどいむし歯になると、そのあとに永久歯が正しい場所に生えることができなくなる可能性が高いからです。そして9歳までは、子どもがみがくだけでなく、仕上げみがきは大人がしてあげることが必要……。ですが、子どもがすごくいやがったりしていませんか? 大田区の歯科医院で子どもたちの歯について、30年にわたって見守り続けてきた倉治ななえ先生が、子どもがいやがらない仕上げみがきのコツを教えてくれました。

生えたて永久歯をむし歯にしないためにも、仕上げみがきのおさらいを

 前回でも、仕上げみがきは9歳のお誕生日まで、と伝えました。これは、乳歯だけでなく、むし歯になりやすい生え変わりたての永久歯を守るためでもあります。赤ちゃん時代から仕上げみがきをがんばってきたという人も、いつのまにか子ども任せにしていたという人も、仕上げみがきについて、ちょっとおさらいをしてみましょう。

 まず、仕上げみがきの歯ブラシは、小さい子どもの口に合わせて選びましょう。ヘッドがコンパクトで毛はやわらかめで密集しているタイプだと、みがいたときに痛がりません。大人が握りやすいグリップのものがおすすめ。持ち方は、えんぴつ持ちが基本です。次に手を固定します。ペンで字を書く時も、手の小指サイドの側面を紙の上に押しつけることで、ペン先が安定して丁寧に字を書くことができますね。歯も同じです。子どもの口の近く、ほほのあたりに歯ブラシを握った手の側面や小指などを当てることで、ブラシ先端部分の力をコントロールしやすくなります。こうすると力を制御しやすく、つい力任せにみがきそうになるのを避けることができます。

 みがくときには、「ゴシゴシ」はNG。歯茎を傷つけることもあるし、何よりも子どもが痛がります。痛いという経験は、子どもが歯みがきの必要性をしっかり理解できたとしても、歯みがき嫌いにさせる大きな原因となります。

 ほんとうは、歯みがきはマッサージのように気持ちのいいもの。歯ブラシを握った指の力で、歯ブラシをプルプルと震わせながら、歯の表面にらせんを描くようにして歯をみがいてあげましょう。このプルプルみがきの力加減は、自分の手指の爪を歯ブラシでみがいてみることで実感してみましょう。爪と甘皮の境い目あたりを歯ブラシでみがいてみます。痛くなく、気持ちいいくらいの力加減、これが歯みがきの力加減、具体的には100~150gくらいです。わからないときは、キッチンスケールに歯ブラシを当てて確認してみましょう。

 このようにして1本ずつみがきましょう。歯ブラシを大きく動かして、ゴシゴシと2~3本ずつ磨くと、なにより歯ぐきを傷つけますし、歯と歯のくぼみや境い目など細かいところにみがき残しができてしまいます。歯は、特に奥歯に向かうほど、面が多くなります。前歯は歯の前側と舌側だけですが、奥歯は箱の形をしているのでさらに隣接する側面と上面が加わります。この五面をそれぞれプルプルと歯ブラシをふるわせるようにしてみがきます。

 もうひとつ、1~2歳くらいのお子さんは、上唇小帯を歯ブラシでひっかかないということも大切です。上唇小帯とは、上の前歯の間から上唇の内面を結んでいる筋です。赤ちゃん時代ほど、この部分が太く強く張っていて、多くの場合、前歯の歯と歯のあいだまで入りこみ、ここを歯ブラシでみがいてしまうととても痛いのです。1歳くらいになると、一度痛かった経験は忘れませんから、歯ブラシを見ただけで、口をおさえて拒否するお子さんもいるほどです。このように、上唇小帯をうっかり傷つけると歯みがき嫌いの原因にもなります。

前歯の間から上唇に伸びた筋が上唇小帯(写真/クラジ歯科医院)
前歯の間から上唇に伸びた筋が上唇小帯(写真/クラジ歯科医院)

 上の前歯をみがくときには、下の写真を参考にして、歯ブラシを持っていない方の手の人差し指でこの上唇小帯をピタッと押さえておきましょう。上唇小帯をおさえただけで、歯をみがかせるようになったお子さんは、大勢いるんですよ

歯ブラシを持った手の小指(矢印で示したところ)は、ほおにぴったり固定する。反対の手の人差し指で、上唇小帯をカバーする(楕円で示したところ)。(写真/クラジ歯科医院)
歯ブラシを持った手の小指(矢印で示したところ)は、ほおにぴったり固定する。反対の手の人差し指で、上唇小帯をカバーする(楕円で示したところ)。(写真/クラジ歯科医院)

フッ素入りの歯みがき剤をつけて、水はつけずにみがこう!

 フッ素入り歯みがき剤が重要なことは前回もお伝えしましたが、おさらいしておきましょう。フッ素は歯を強くします。歯の一番表面を覆っているのはエナメル質ですが、フッ素はこのエナメル質を再石灰化作用で強化して、ミュータンス菌が出す酸に負けない強い歯質にしていくことができます。

 フッ素は定期的に歯科で塗布してもらう高濃度フッ素もありますが、それだけでは不十分です。日々の歯みがきの時に、低濃度であっても少しずつ定着させるフッ素が必要です。歯みがき剤を選ぶ時には、「フッ素入り」と書いてあるものか、成分表示に「フッ化ナトリウム」「モノフルオロリン酸ナトリウム」「フッ化第一スズ」という表示があるものがフッ素入りです。子ども用には味がマイルドで研磨剤が細かいものを選びましょう。

 歯みがき剤のつけ方の基本は、濡れていない歯ブラシにつけること。水で塗れてしまうと、歯みがき剤が泡立ちすぎて、長時間みがきにくくなってしまいます。また、泡立ちすぎると、歯ブラシの毛の当たり方がやわらかくなりすぎて、歯垢が落としにくくなります。それぞれの年齢ごとの適量(前回の解説を参照)をつけて、ブラシ全体に指で伸ばし、歯ブラシの毛の間に埋め込むようになじませてからみがきましょう。

 歯みがきが終わったら、必ず「ブクブクペー」をしますが、2回ほどで十分です。あんまり何度も出してしまうとフッ素が流れ出て効果が薄くなります。