「くるみん目的」で男性育休を進める時代は終わった

―― 昨年は、初代グランプリ企業となったサントリーの「育休取得後のフルモード化」、初代・特別奨励賞の丸井グループの「男性育休取得率を上げる取り組み」、同じくダイキン工業の「3種類の在宅勤務」などが目立ったキーワードとなりました。今年はどのような動きがあるでしょうか。

佐藤 男性の育休取得は引き続き注目されていますが、これまで企業は、「くるみん」や「プラチナくるみん」マーク(国が認定する「子育てサポート企業」のマーク)が欲しくて取り組んで来たという側面があります。「くるみんを取らなきゃいけないから、男性に育休を取得させなくてはいけない」という考え方ですね。

 多くの企業が男性育休取得率を上げることに注力し、その結果、日数は短くとも男性で育休を取得する人が増えています。取得率100%を目指すと、意識がゼロだった男性にも強制的に取らせることができるので、それを狙ってやるなら取得率を上げる取り組みも意味があると思います。ただ、最も大切なことは「育休はゴールではない」という認識です。ここで一度、くるみんを忘れて、「なぜ、男性育休が必要か」という原点に立ち戻る必要があります。

男性育休を「いつ取るか」「何をするか」が大事

佐藤 そもそも女性が活躍するためには、男性も子育てしなくてはいけない。そのために男性も育休を取得する。なぜ男性が育休を取得するかというと、その後も「カップルで子育てする」ためです。

 つまり、育休を取った経験が、その後の長い長い子育ての期間に生かされなければいけません。育休を取ったことが大きなインパクトとなり、その男性が変化しなければ意味がありません。育休はただの点にすぎません。それを線にし、継続的な子育て参加という面につなげる。その最初のきっかけが育休なのです。育休を取ったことをきっかけに「働き方を見直さなくては」と意識が変わることが大事です。

 その視点で考えると、男性育休で最も大切なのは、取得日数よりも「いつ取るか」、そして「何をするか」です。子どもが1人目の場合、例えば妻が産院に入院中に取得してもあまり意味がありませんよね。それなら、退院後の産後6週間以内に取ったほうがいい。妻は安静にしなくてはいけませんが、すべき家事・育児が山積みなので、夫もちゃんと育児と家事に参加できる。つまり、最も必要とされ、より意味のある時期に取らないといけません。

 ちなみに、男性育休は、日数が短いほうが意外と取りにくい。数日の取得では職場に穴を開けるだけになってしまいますが、思い切って3カ月休むことにすると「代替要員を入れる」といった議論ができる。男性育休の取得がなかなか進まないという企業は、短い日数を前提に考えているからかもしれません。

「休むならちゃんと育児してね」と一歩踏み込んで伝える

―― 現時点では、男性育休の取得率を上げるのに精いっぱいという企業が多いように思えます。

佐藤 ほとんどの企業はまだ「男性も育休取りなさい」と言っている段階ですが、「いつごろ取るとよい」「こういうことをするとよい」などの情報提供も併せてできるのが理想です。男性育休の社内パンフレットなどにそういう情報を盛り込む。「育休を取ったらちゃんと家事・育児してね」というところまで一歩踏み込んでケアできている企業が最も進んでいると言えますね。また、制度設計の際にも、単純に取得できる時期を延ばすなどではなく、「意味のある取り方ができる制度か」という視点を加味できているとよいですね。

 話を戻しますが、では「カップルで子育てする」というのはいったいどういう意味なのか。例えば、保育園の送迎ですが、送りは当たり前として、お迎えを男性に少なくとも週2日は行ってほしいですよね。本来は企業がそこまで言うべきです。