総合職は長時間労働が避けられない

山口 女性が一般職を選択する際、よく挙げる理由は「ワーク・ライフ・バランスを取りやすい」です。その裏には、「総合職は長時間労働が避けられない」という背景があります。自分のやりたいことや能力とは関係ない理由で一般職を選ばざるを得ない状況にこそ、問題があるのではないでしょうか。

 総合職であっても男女ともにワーク・ライフ・バランスを取れる働き方が実現すれば、その問題も解決できます。簡単に解決することは難しいですが、ここ数年、働き方改革にスポットが当たっているおかげで、様々な企業での先進的な取り組みが成果を挙げている印象はあります。希望の持てる方向に変わってきていますね。

「ダイバーシティー」は浸透、「インクルージョン」はこれから

―― ほかに何か課題はありますか。

山口 「ダイバーシティー」という単語は随分浸透しましたが、現在の日本企業の課題は、そこで立ち止まってしまっている点です。実はその先にある「インクルージョン」が重要なのです。

 例えば、短時間勤務で早く帰ることは認められても、責任のある仕事を任せられず、将来のキャリアに不安を感じたり、申し訳なさを感じたりする。男性が育児休業を取得するとか、育児のために早く帰ろうとすると、上司から無言の圧力を感じる。そうした職場は「インクルージョン」が実践されているとは言えません。

 多様性のある(多様な働き方をしている)社員が、それぞれの能力と経験に応じて貢献し、「どの人も欠かせない人材である」と企業からも仲間からも認められている。働いている社員本人も、障がいがあろうが、時短であろうが、「自分は会社のお荷物なのではないか」と感じることなくその場所で働ける。そこで初めて「ダイバーシティー&インクルージョン」が実践されていると言えます。

 それを推進する部署の名前が一部の企業を除き「ダイバーシティー推進室」であることが多いのですが、名は体を表すとも言いますし、いっそのこと、ダイバーシティー&インクルージョン推進室、長ければD&I推進室と改名するのも一案かと思います。

 この概念が最初に提唱された米国では、人種、性別、宗教、LGBTなど、マイノリティーの権利が認められるための公民権運動の歴史があり、社会全体にそういった考え方を受け入れやすい素地がありました。日本では多様性を認めありのまま受け入れるという考え方が社会全体に浸透していないので、企業が率先して変わるためには、経営者含め社員一人ひとりの価値観を変革する必要があり、多大なエネルギーが必要です。「わが社はこういう考え方でいきます」と、トップダウンで表明するところから始め、それを組織の末端まで浸透させていかないとうまくいきません。