いつの時代も、子どもたちが未来を切り開く

 「男は男らしく、女は女らしく」という考えが当たり前だった社会で、炭鉱夫としての誇りを持ち、男らしく強く生きる父。でも、その父とは正反対の「バレエ」という世界を夢見て走り出す息子ビリー。

 親の価値観と真逆のことをやりたいと息子が言ってきたら、わが家ならどうするだろうか。果たして、息子の希望を受け入れ、サポートできるのだろうか。親として考えさせられる場面がたくさん出てきました。

 その後、懸命に夢へ向かおうとするビリーのピュアな姿が、周りの大人たちを変えていきます。最初は「バレエなど男のするものではない!」と一蹴していた父も、悩みに悩んだ末、重大な決断を下します。

 いつの時代も、未来を切り開いていくのは子どもたち。子どもは、未来を動かす力を持っている。先の見えない炭鉱街の人々にとって、「夢をかなえたい」と願うビリーの想いは、一つの希望の光となっていきます。

 涙が止まらない理由は、ストーリーもさることながら、ビリー役を演じる少年たちがビリー同様、夢に向かって努力してきたということ。今回、初めて日本人キャストでの上演となりましたが、ビリー役の少年は約1年という長期育成型オーディションを経て選ばれた5名。応募条件は「147cm以下、声変わりをしていない少年」のみ。ダンス経験問わず、一般公募の中から選ばれた小学5年生~中学3年生の子どもたちなんです。

撮影:阿部高之
撮影:阿部高之

 世界的バレエダンサー熊川哲也氏が主宰するKバレエスクールをはじめ、一流のダンスレッスンを受け、成長してきた子どもたち。その陰に、どれだけの涙と挫折があったことでしょうか。

 私は、このビリー役の公募が始まった頃から取材し、見守ってきました。それだけに、「こんなに立派になって…頑張ったね」と感慨もひとしお。このミュージカルを観たママたちは皆、舞台上のビリーにわが子を重ね、涙するのではないでしょうか。