企業は、優秀な人材の中途採用に本気で取り組んでほしい

 佐藤さんの話を聞いて、私が考えたことが3つあります。

 1つ目は、帰国後、佐藤さんの妻に良い就職先が見つかるといいな、ということです。10年以上働き続け、海外生活の中で自ら学ぼうとする意欲がある女性が働きたいのに働き口が見つからないのは、とてももったいないことです。

 2つ目は、マネジメント層に、こうした問題に向き合ってほしい、ということです。特に、佐藤さんの妻に「あなたはずるい」と言うような意地悪は、組織の空気を暗くします。チームマネジメント上もプラスはありません。さらに言えば、「ずるい」という言葉で表現される非合理的な批判をなくす姿勢を見せない限り、どんなに良い制度を作っても、使える雰囲気にはならないでしょう。

 3つ目は、本気で人材を活かしたい企業に、もっと活発に動いてほしい、ということです。佐藤さん夫妻は、制約の中でできる限りの情報収集と交渉をしました。それでも変わらない場合、組織を変えるより転職したほうが良いかもしれません。

 もし、こういう経験をした人を積極的に中途採用する企業が増えれば、働く側に「選択」の可能性が生まれます。15年前、あるグローバル企業のダイバーシティー担当者(中米出身の米国人男性)から聞いた言葉を思い出しました。

 「日本企業が女性を差別しているとしたら、私たち外国企業にとってはチャンスです。優秀な日本女性が、こちらに来てくれる、ということですから」

 近年の日本では女性活躍、ダイバーシティー推進への関心が高まり、本気で取り組む雇用主が増えています。優秀な人が「辞めざるを得ない」環境を逆手に取って、彼・彼女たちを生かす企業が伸びる……こういう変化が起きてほしいと願っています。

(イメージ画像/iStock)