試合に出てもなかなかボールに触れない子への練習法

―― 池上さんのサッカーチームでは、皆が平等に試合に出られるようにしているそうですね。でも、試合に出ても、積極的にボールを取りに行けると、なかなかボールに触れられない子もいます。よい指導法はありませんか。

池上 基本的には年齢、あるいは技術によって、練習の人数を変えるんです。練習する人数を減らせば減らすほど、必然的にボールに触らないわけにはいきませんから。ボールに触らず皆の周りをいつも回っている子というのは、回っているだけでもべつに試合はつつがなく進んでいくので、ボールに触らないんです。でもこれが、2人の場合はそうはいきませんよね。もう一人の子が「おい! 守れよ!」とか言うと思うんです。そしてボールに関わる機会が増えてくる。そんなふうに少しずつ変化していけばいい。親がよく言う「怖がらずに行きなさい」というのは、今まで外にいた子がすぐに中央に入ってきてプレーをしてほしいということですよね? それは非常にハードルの高いことだと思いませんか?

―― ポジションはある程度の年齢になるとコーチが決めていくことだと思うんですが、本人の希望と実際の適性が異なる場合もあると思うんです。先生の場合は、どのように決められるんでしょうか。

池上 中学2年生くらいまでは、全部のポジションをできるようにしますので、決めません。中学3年生くらいになってから、性格やプレイスタイル、ポテンシャルを考えて、ポジションを決めていきます。

―― その年齢までは試合ごとにポジションを変えていくということですか。

池上 そういうことです。ゴールキーパーも含めて、全部のポジションをやってみればいいと思います。サッカー日本代表の歴代のディフェンダーたちは、ほとんどの選手が小学生のころにフォワードです。逆にディフェンダーからフォワードになった人もいます。みんなどんどんポジションを変えているんです。

―― プロ野球だと、3割バッターでも甲子園ではピッチャーをやっていたなど、エースの子はピッチャーをやるものだ、みたいなのがありますけど。サッカーだとそういう、エース級は必ずここのポジションというのはないんでしょうか。

池上 特にないですね。間違いなく特徴がありますから。野球で言うと、運動神経が一番いい子がピッチャーになるし、そういう子は打つのも上手だし、走るのも速かったりする。一方、サッカーだと性質で変わってきます。粘り強い子はディフェンダーに向いているし、ちゃらんぽらんな子はフォワードです(笑)。頭の良い子は中盤に置いてあげるほうがいいし。あと、右利きなのか左利きなのかもポジションに影響します。

―― 小学校低学年でも、空間把握能力の高い子っていますよね。よく周りが見えているとか。経験もあるのかもしれませんが、あれは天性のものなんでしょうか。

池上 その感じ取る力というのは、もともと持っている子もいますし、当然、後天的に練習で身に付けられる能力でもあります。そういうトレーニングをサッカーではたくさんします。私が思うに、今の日本のチームスポーツは小さいころに個人技術の練習を重点的にやることが多いのですが、やりすぎると「人」を感じられなくなる。これに対してはドイツの大学の心理学者も言っています。「チームゲームのスポーツは一人だけのトレーニングをできるだけなくしたほうがいい。でないと、仲間を感じられない選手になる」と。

―― では、家で自主練というのはあまりやらないほうがいいんでしょうか。

池上 そうです。でも、一人でしか練習できないときもある、という質問もよくいただきます。例えば、壁にボールを蹴って、それを蹴り返す。その場合は壁が仲間ですよね。そういう場合は、壁の仲間に顔を描いたらいいんです。そうしたら、その描いた頭のところに当ててやろう、となれば、一人だけでボールを蹴っているだけじゃなくて、次に二人でやるときに同じことができるようになる。