「子どもは本当にいつ伸びるか分からない。自分で楽しい、やりたい、と思うと伸び始めるんですよ」

 ジェフユナイテッド市原・千葉の育成普及部コーチや京都サンガF.C.育成普及部部長を歴任し、これまで延べ50万人の子どもたちにサッカーを教えてきた池上正さん。新著『伸ばしたいなら離れなさい』(小学館)でも、「失敗してOK、大人は消えてOK、放っておきなさい」と説いています。そう考える根拠とは?どう子どもに接すればいいの? 池上さんにインタビューをしました。子どもがサッカーをしているママ・パパはもちろん、子育て全般において役立つ言葉が満載です。2回に分けてお届けします。

 <前編記事> 池上正「子どもを伸ばしたいなら、大人は離れること」

できる子は放っておけるけど… できない子はどうする?

―― 大人になった人の成功体験では、「好きなことを静かに応援してくれていました」とか「お母さんはあれこれ口出さず見守ってくれていました」とかいう話をよく見聞きします。それは大事だなと理解しつつも、成功した人はもともとできる子だから放っておける、ということはないでしょうか。

池上正さん(以下、敬称略) 運動に関して言えば、小学校3年生くらいまでは、親は色々な運動をさせておくといいと思います。それは上手とか下手とかではなくて、体験させてみるということです。泳げなくてもプールに連れていくとか。その後は自分で好きなことを選んでやってみればいいわけです。能力がいつ開花するのかは個人差があって、本当に分からないんです。ただ、間違いない話で言うと、小さいころによくできる子たちは、それ以上伸びないことが多いです。そのまま普通になっていく。できなかった子たちがその後ぐっと伸びて追い越していく。

 私も、小学生の間は走るとビリでした。うちの父親は私の運動会を見るのが嫌で、「お前の走っている姿なんて見たくない」と言っていました。鉄棒にぶら下がると動けなかったです。けれど、中学校に入って水泳部に入ったころから、走るのも平均くらいの速さになって、中2、中3では速いほうになっていました。子どもは本当にいつ伸びるか分からないんです。自分で楽しい、やりたい、と思うと伸び始めるんですよ。

―― いくら親が「リレーの選手になったら楽しいよ」とか「1位になったら気持ちいいよ」とか言っても、本人が興味を持てないと意味がないんですね。

池上 日本人は常に“1位”の話をするんですよね。今20番目くらいにいる子に対しても、10番になったときは~という話はしないで、1位になったときの話をする。20番くらいの子がいきなり1位を取るのは大変なことですよ。でも日本の文化はなんでも1番がいい。

 オリンピックのメダリストの日本と海外の選手の比較をすると、海外選手のほうがメダリストの年齢が高いと思いませんか? 日本のメダリストが若いのは、早期教育なんですよね。早くからさせると結果が出ると思われている。今は卓球がとても盛り上がっていますが、では彼らが20代になったときに同じように世界の頂点にいるか、分からないですね。

 海外選手は子どもの間に色々なことをやっていて、高校や大学くらいで「これは自分に向いていると思う」というものに出合って、そこから4年くらい鍛えると、いい選手になっていたりします。

子どもたちとサッカーをする池上さん
子どもたちとサッカーをする池上さん