大学・研究機関・保育園が連携 よりよい保育環境への追及

ヘルシンキ大学内にある研究施設「プレイフル・ラーニング・ラボ」。積み木や自然素材のおもちゃ、紙やペンなどを使って子どもたちが遊ぶ自然な様子を、壁一面に設置されたマジックミラーの外から教育関係者が観察・検証。よりよい保育環境に生かす
ヘルシンキ大学内にある研究施設「プレイフル・ラーニング・ラボ」。積み木や自然素材のおもちゃ、紙やペンなどを使って子どもたちが遊ぶ自然な様子を、壁一面に設置されたマジックミラーの外から教育関係者が観察・検証。よりよい保育環境に生かす

 フィンランドでは、保育を必要とする全ての子どもたちに保育施設を24時間確保することが自治体の義務。守られない場合は罰せられることが、国の法律で決まっている。日本では待機児童2万6081人(2017年4月1日時点)と3年連続の待機児童数の増加が社会問題となっているが、フィンランドにおいて「待機児童」という言葉は無縁だ。

 1人1人の子どもと向き合い、興味や自主性を引き出す先生の力量も重要。フランゼニア保育園とプリスクールの幼稚園教諭たちはヘルシンキ大学で教育訓練を受け、同大学の学生たちはフランゼニア保育園での実習に参加するなど、大学と研究機関、保育園が連携しながら、幼児教育の最新知識を日々の保育に生かしている。

  「法律が整備されている一方で、保育園の運営については自治体と園に裁量が任せられているため、現場の意見が保育に反映されやすい環境です」とマケラさん。

 子育て支援も手厚く、「ネウボラ」(『フィンランドの切れ目ない家族支援「ネウボラ」』)に代表されるように、フィンランドでは社会全体が子どもの誕生を歓迎し、継続的で包み込むような支援を行っている。さらに母親休業に加えて、母親と父親のどちらか一方が取得できる親休業や、父親の育児を促進するための父親休業も整備され、父親休業の取得率は約8割と高い。(『フィンランドでは育休取らない男性は“悪い人」』)

 日本では、子どもの預かり先確保や保育の質など切実な問題が山積みであるが、フィンランドには目下抱える課題はないのだろうか? 

 「保育士の人材確保ですね。ヘルシンキ市では保育の需要が高まる一方、地価が高いので保育士の給料でヘルシンキ市近郊に住んで生活を成り立たせるのは厳しい現状があります。現場を担う保育士の確保は、年々難しくなっています」とマケラさん。

 保育園内で働くスタッフの中に、男性の姿がほとんど見られないということも気になった。同園に勤務する男性幼稚園教諭に聞いてみると、「学校教員に比べて、給料が高くないから」と話す。

 フィンランドの学校教員は、医師や弁護士と同じくらいステイタスが高く人気の職業。学校教員は教育大学に入学し、6年間の修士課程、幼稚園教諭は3~4年間の学士過程の卒業資格する必要があり、同じ義務教育化であっても求められる卒業資格と処遇が異なる。中・高・大学の教育現場に比べると、幼稚園、小学校の現場での男性教員比率は少ないそうだ。(小学校の学習現場については、連載第3回の記事でお伝えします)

 「『子どもを育てたり、誰かの世話したりする仕事は女性の仕事』という意識は社会の中にまだあります。2017年秋から保育園(ECEC)の新カリキュラムもスタートすることで、幼児期の学びの重要性がより浸透するとともに幼児教育全体の処遇も改善していけば」と望むマケラさん。

 「隣国スウェーデンでは、父母が半々の割合で育児分担しながら、産後の休暇を平等に取るのがスタンダード。一方、フィンランドでは8割の男性が育休を取り、男性が育児をするという意識は浸透したけれど、『父親は6週間前後休暇を取り、残りの休業期間は母が取る』という場合が多い」という指摘もあるように、さらなる平等意識の広がりを望んでいる声も少なくない。

 日本と税制が異なる福祉国家で、約550万人と北海道やシンガポール程度の人口規模であることから、「制度が充実していてうらやましいが、日本が手本にするには現実的に難しい」と“絵に描いた餅”のように言われがちであるが、日本が今直面している出産や子育てにまつわる様々な課題に対して、変革を恐れずにその都度軌道修正もしながら問題解決へと力強く推し進めてきた同国から学ぶことは多い。

 教育に関しても、世界的な教育のトップランナーの地位に安住せず、次世代を育成するためのさらなる研究と教育改革を推し進め、地道な取り組みを続ける。確実に変革を成し遂げていく実行力の高さは、国を主導に、自治体や教育機関、企業、現場が協力し合う密な連携と、自治体と現場に与えられた自由な裁量権が下支えをしている。

 次回は、学びの意欲を助長する環境づくりについて。また、今回の教育改革の要点について、一児の母で教育大臣のサンニ・グラーン=ラーソネンさん(34歳)へのインタビューも紹介する。

(文・構成・写真/日経DUAL 加藤京子 取材協力/フィンランド大使館、フィンランド外務省、フィンランド貿易局)