1年間グラウンドで寝ていた子どもが、ある日突然…

―― みんなでワイワイすることや、試合をするのは好きだけど、「リフティングを何回までできるように家でも練習しましょう」というような課題はやらない子もいます。そのあたりも放っておいていいものでしょうか。親としては、課題をこなしてうまくなってほしい、コツコツ毎日努力することもしてほしい、などと思ってしまいそうです。

池上 例えば学校で宿題が出されないと、親が文句を言ったりするそうです。子どもはうれしくて仕方がないのに。でも宿題を出されないと、本当に勉強ができないんですかね? 勉強したい子は勉強すればいいじゃないですか。「僕は勉強したいので、宿題をください」「僕はいりません」って言えるのが理想。スポーツは遊びなので、宿題があること自体、僕は賛成しないです。やりたい子は勝手にやればいい。

―― そもそも子どもが自分でしなければ放っておいていいということですね。

池上 ヨーロッパにはクラブチームしかなくて、学校のクラブというものはないんです。そのクラブチームでは平日に週2回練習、土日のどちらかで試合がある。それ以上はやらないんです。

 中学生でも週2日か3日です。高校生でも3日ですね。成長期って、運動と休養と睡眠がすごく大事なんです。なのに、日本には休養がない。Jリーグの育成チームなどで活動する子が、中学3年になって受験を迎えるとき、1カ月練習を休みます。すると1カ月後、全員体が大きくなっている。それは太ったということではなくて、背が伸びてがっちりしているんですね。なぜかと言えば、規則正しく睡眠をとれて、食事を取っているからです。Jリーグの練習は、夜にやるので寝る時間が削られたり、ご飯を食べる時間がなかったりするんですね。休養というのは本当に大事なことなんです。基本、やり過ぎなんですよ。

 私が千葉でスクールを開いたときに、幼稚園の年長の子が、1年間、毎週グラウンドに来ると、寝ていたんです。私も何度か「気持ちいいよな~」と言って、一緒に寝てみたんですけど。その子は本当に1年間サッカーはしなかった。お母さんもよく連れてきたなと思ったんですけど(笑)、私も別に気にしていなかったんです。でも、1年生になった途端、その子が走り回っている。びっくりして、その子を呼び止めて「どうしたの? 今日は寝ないの?」と聞いてみたところ「え? なんのこと?」と言って、寝ていたことすら忘れて楽しそうに走っている。

 いつ、どこで子どもは変わるかわからない。指導者が、どう見守ってあげるかというのはすごく大事だと思っています。

後編に続く>

(取材・文/日経DUAL編集部 砂山絵理子)