「見える化」して時間にシビアに対峙する習慣を

塚越  逆に、対処法は一律では意味がない。オフィスに近いところに住んでいる社員は、テレワークするよりギリギリまでオフィスで働いたほうが効率はいいのですから、それぞれの現状分析が大切です。現状分析はとても大変な作業ですが、所定労働時間を減らすという全社的なコンセンサスがあると、圧倒的に進めやすいですよね。

 これに加えて、社員一人ひとりが、時間感覚を身に付ける必要があります。時間にシビアに対峙する習慣をつける。日本的なこれまでの働き方は、労働時間の上限規制も緩かったので、まず業務ありき。労働時間でなく業務量ではかり、業務が終わった時点が仕事の終了時間でした。ですがこれからは「◯時までに帰る」が先にあり、その中で収まるように仕事をする。時間を区切ってパフォーマンスを最大限に上げるためにはどうすべきか、業務の進め方を根底から変えないといけません。

 所定労働時間を減らす取り組みをしているこの企業では、個人の働き方を「見える化」する取り組みを何年も続けています。簡単に言うと、時間を設定して、そこまでに終わらせるために、今日はこの仕事を何時間で済ませる、という計画表を社員に提出させています。まず時間を先に決めて、そこから逆算する。

 有休も最後にドタバタ駆け込みで取るのではなくて、「今月はここで有休を何日取る。だからこの仕事を何時間でする」、というふうに計画させる。これを習慣化することで、個人個人が時間と生産性を意識して働けるようになります。「労働時間を◯月からみんなで短くするぞ!」といきなり始めるのではなくて、細かな準備段階の施策を組み合わせて、段階を踏んで進めている。組織として効果的に取り組んでいる企業は、そこまでやっています。

 実は、働き方を変えるというのは、段階を踏む必要があり、理想を言えば、テレワークも各個人が時間とパフォーマンスを意識できるようになってから導入すべきなのです。

悪いのはテレワークなのか、人間関係なのか

―― 「働き方改革」でテレワークもさらに広がっていますか。

塚越 今年は東京都が「東京テレワーク推進センター」を開設するなど本腰を入れ始めましたし、国が主導して7月24日に「テレワーク・デイ」も初めて実施されました。セキュリティーの問題さえクリアすれば、余計な移動時間を削減できるテレワークの動きは今後も広がっていくでしょう。

 ただ、私が一つ懸念しているのは、導入の仕方です。テレワークが難しいのは、もともとの信頼感とコミュニケーションが構築されていない関係性においては、テレワークの導入によってその問題がより顕著化する傾向がある点です。テレワークを導入したけど、なぜだかうまくいかない。実は導入以前から、社員同士の関係性がよくなかったなどの問題がある場合があります。しかし、まるで「元凶がテレワークである」というふうに誤解されてしまう危険性があります。

画像はイメージです。
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