真のイクボス育成のためには人事や評価制度に組み込むべし

塚越 さらに、イクボス育成を定着させるなら、長期的な視野で人事制度や評価制度まで変える必要があります。今は、評価基準はそのままに「意識だけ変えよう」という姿勢の企業が多いようです。しかし、評価基準が変わらなければ、誰も行動を根本から変えることはできません。せっかくイクボスセミナーを受けても、人事評価においては部下のワーク・ライフ・バランスを無視して会社の成果だけを求める上司、つまり“激ボス”が評価されるようでは、元に戻る上司も少なくないはずです。評価には2種類あります。昇進昇格といったフォーマルな人事評価制度と、社内表彰や社内報での紹介などインフォーマルな評価の仕組みです。

 中には、ユニークな取り組みを始めた企業もあります。ある企業では、イクボスを人材改革のコアの一つとして位置付けているのですが、全国の社員にアンケートを取り、「部下からの評価」で部長のイクボス度ランキングを作り、さらに、その部長の「実際の業績」を掛け合わせた結果をランキングにし、上位にランクインした上司を表彰しています。部下からの評価だけではただの人気投票になりがちなので、業績を伴っているかを加えて表彰基準としているわけです。この取り組みの結果、「イクボスであることが評価される」というインフォーマルなメッセージを社内に打ち出すことができていると思います。

先進的企業は人事評価もいじり始めている

塚越 前述の例では、部下からの評価と業績の2つの要素を抽出して表彰基準にしていますが、本当は「イクボスである」という評価を公式な昇給などの評価基準にも入れないといけません。そしてイクボスでなければ昇進できない、「管理職=イクボス」が当たり前になるのが理想です。そうなれば、イクボスという言葉も不要になるでしょうね。

 そこまで結果を出すためには、人事評価や人材育成システムなど、いろんなところをひっくり返す覚悟が必要です。人事評価についていうと、全項目の25%ぐらいはイクボスに絡む内容があるか確認しましょう。企業によっては新しい項目を増やす必要はないかもしれません。これまでの評価項目のうち、例えば人材育成やチームワークに関する項目は、イクボスとしての強化項目であることを明示するだけでも、イクボス推進には効果があると考えます。人間は、どの行動で評価されたか分かれば、行動も変えられるのです。会社がここまでやって、やっと社員全員に「上は本気だな」と伝わるのです。「上が本気で動いているなら、自分も動こう」とつながっていくわけです。

 女活法を受けて、「とりあえず何かしなくては」ぐらいの軽い気持ちでセミナーにアプローチしてきた企業は、こちらがそういった話まですると、「もっと気軽な話だと思っていました」と驚かれることもあります。残念ながら、その後、そのまま立ち消えになる企業もありますが、イクボス推進はこれまでの経営計画や人事評価制度と矛盾していないなど、社内の関連部署と連携して論点を整理し、再度問い合わせてきてくださる企業もあります。本気の企業では必要に応じて人事評価を改革する議論も始まっています。

―― ありがとうございました。後編では「残業時間」や「テレワーク」などについて伺います。

(後編へ続く)

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