目の前は崖、我々の世代はもう先送りできない

塚越 イクボス育成で難しいのは、ロールモデルが上の世代に少ないという点です。普段の仕事とは違い、先輩や上司のマネをすればよいという話ではないのです。

 イクボス育成やワーク・ライフ・バランス、ダイバーシティーなどの課題については、本来はバブル崩壊後、すぐに日本全体で取り組むべきものでした。人口推計上、日本の人口ボーナスは1990年代初頭に終わっているからです。でも、幸か不幸か、当時は国内市場もひとまず残っていたために、なんとか既存の働き方でも、経済が回ってしまった。そのために、過去の成功体験を引きずったまま、働き方改革を今日まで先送りしてきてしまったのです。先輩世代は逃げ通して、我々世代にバトンを渡してきました。そして、人口推計通り、人口は減っていき、大介護時代がもうそこまで来ています。我々の世代はもう目の前に崖が見えていて、もはや先送りはできないわけです。

 そういうわけで、今の日本企業の中には先送りしてきた人ばかりで、ダイバーシティーマネジメントに長けたロールモデルが少ないのです。ですから、今の経営陣の世代と、若手世代の両方は一緒に新しい働き方にチャレンジしていかないといけません。経営陣の世代も「時代が許さなかったからやってこなかっただけで、今求められたらやるよ」という方が意外と多いんですよ。やり方が分からないというだけです。

 イクボスセミナーに参加する社員の対象を広げる企業は増加しています。例えば、前年は役員や部長クラスのみが対象だったのを、今年は課長や一般社員にまで広げるといった動きがあります。

―― 役員や部長クラスから始めることが多いのですか。

塚越 働く現場で一番困っているのは課長です。上司からは数字を求められ、部下からは「育休取りたい」などと言われ、でも実は課長自身も家に帰れば小さい子どもがいる子育て期真っ盛りというような状態だったりして。

 というわけで、イクボスのノウハウを最も必要としているのは課長ですが、課長を対象にセミナーをすると、その後のアンケートで「部長にも受けてほしかった」という声が多数寄せられるので、まずは、役員や部長クラスにイクボスセミナーをするよう薦めています。本来ならば役員から、部長、課長まで全員一緒に話を聞いてもらうのが一番効果的なのですが、大企業だとやはり課長だけでも何千人規模になってしまうところが多いので、便宜上、階層別で集まってもらうことになります。