おしどり夫婦として知られる女優・タレントの矢沢心さんと、日本人初のK-1世界王者・格闘家の魔裟斗さん。2人は、5才ともうすぐ3才になる2人の女の子のママとパパであり、不妊治療の経験者でもあります。

 長くつらい治療を乗り越え、7回目の体外受精で待望の赤ちゃんを抱くまでの日々を、振り返って語ってもらいました。前回は、生理不順や無月経の原因となる多嚢胞性卵巣(たのうほうせいらんそう)症候群という矢沢さんの持病のこと、夫の魔裟斗さんとの出会いなどについて語ってもらいました。第2回は、不妊治療のスタートから体外受精へステップアップしたころのお話です。

妊娠するチャンスは1年に12回だけ

 病院での検査の結果は、やはり「多嚢胞性卵巣症候群で、妊娠しづらい体」というものでした。でも、先生も看護師さんも、「若いから、そんなに急がなくても大丈夫」と言ってくれたので、妊娠はできるんだろうなと思っていました。

 私は排卵検査薬を使い、予測された排卵日ごろに夫婦生活を行うタイミング法を何度か試した後、フーナーテストと卵管造影検査を受けました。フーナーテストは、検査の12時間前以内に夫婦生活を持ち、子宮頸管から粘液を採って、その状態や精子の数、運動の状態などを調べる検査です。卵管造影検査では、子宮の中に造影剤を入れてレントゲンで撮影し、子宮の形や卵管に通りが悪いところがないかなどを診ます。

 検査では大きな問題は見つかりませんでしたが、その後、人工授精を4回受けても、やはり授かりませんでした。そのころになると、さすがの私も「妊娠しづらいって、こういうことだったんだ」と、ようやく実感するようになりました。そして、思ったのです。「若いから大丈夫っていうのは、違うんじゃないか?」って。

 不妊治療では、最初に血液検査や超音波検査、フーナーテスト、卵管造影検査などを行います。こうした検査は生理周期に合わせて行うため、大体2~3カ月ほどはかかります。

 検査が終わると治療に入りますが、多くの病院では、タイミング法から始まります。超音波検査で卵胞の大きさを、血液検査でホルモンの値をそれぞれ調べることで、排卵日が推測できるので、それに合わせて夫婦生活を行うように指導があります。タイミング法を行う回数は、年齢や状況によって違いますが、多い場合は4~5回ほど続けるようです。

 それで妊娠しなかった場合は、人工授精にステップアップします。推測した排卵日に夫の精子を採取して、子宮内に直接注入する方法です。人工授精では、6回目までに妊娠する人がほとんどのため、その回数までに授からなかった場合は、体外受精へのステップアップを勧められることが多いようです。

 体外受精は、卵巣から採取した卵子と、夫の精子をシャーレの中で受精させる方法です。薬や注射などでより多くの卵胞を育てて、その中から質の良い卵子を採取するので、注射などをするために通院回数が多くなりますし、体への負担も大きくなります。精子の数が少なかったり、運動状態が良くなかったりする場合は、卵子の中に直接精子を注入して受精させる顕微授精を行うこともあります。

 なかなか妊娠しない場合、原因が特定できることもありますが、検査をしてもハッキリと分からないことや、原因が一つでないことも多いようです。そうして何度も検査をしたり、治療をしたりしていくうちに、1年なんてあっという間に経ってしまいます。なにしろ、排卵は1カ月に一度なので、1年に12回しか妊娠のチャンスはありません。特に私の場合は排卵の周期が長いこともあったので、1年に12回もありませんでした。

 加えて、少し前に話題になった「卵子の老化」という問題もあります。卵子は生まれる前に作られているため、本人と同じように年齢を重ねていき、質が悪くなって、妊娠しにくくなるのです。そして、いくら年齢が若くても、なかなか授からなくて治療に時間がかかれば、そのぶん卵子は老化していきます。

 そう考えると、「若いから大丈夫」とはいえない。だとしたら、早めに体外受精もしくは顕微授精にステップアップしたい。そう思いました。

 とはいえ、体外受精には、受精させた卵子を入れる培養器や、その培養器を管理する部屋など、高度な設備が必要となるため、どこでもできる治療ではありません。通っていた病院にもその設備はなかったので、転院先を探し始めました。条件は、通院しやすいことと、女医さんであること。

 そして、2008年秋に転院しました。治療を始めて半年ほどが経ったころでした。

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