逆上がりで体がくるりと回って、世界が一変した
―― ご著書の『向日葵のかっちゃん』は、主人公の“かっちゃん”が小学2年から特別支援学級に入ることになり、母親が泣き崩れるところから始まります。“かっちゃん”こと西川さんは、文字や数字が頭に入ってこないという障害をお持ちだったのですね。
西川司さん(以下、西川) 人間の右脳は空間認知能力というものをつかさどっていて、形や奥行きを認識するのですが、僕はその能力が著しく劣っていたようです。だから字を見ても、脳になかなか記憶されず、書くこともできなかったんですね。
発達障害には大別して“多動性障害(ADHD)”“アスペルガー症候群”“学習障害”の三種があるんだけれど、先日、病院の先生と話していて、僕はその中の“アスペルガー症候群”に当てはまることが分かりました。それは恐らく先天的なもので、完治することはないけれど、療育によってかなり改善されるのだそうです。
不思議なことに、僕の恩師の森田先生は、最新の研究で分かってきたその療育のノウハウを、50年近く前に実践していたんですね。彼はペルーの日本人学校で教えていたことがあって、現地では学校に通っていない子もたくさん見てきたから、「文字が書けない・算数ができないことは全然恥ずかしいことではないよ」と僕を丸ごと受け入れたうえで、「けれどもしこの学校で普通の学級に行きたかったら、何度も何度も、例えば他の人が一回やることを20回反復してごらん」、と“体で覚える”ことを教えてくれたんです。
5年生に進級する前の春休みに「一緒にやってみないか」と言われ、僕はそれまで大人にそんなふうに構ってもらったことがなかったからうれしくて、2週間、毎日学校に通いました。先生と一緒に様々なことに取り組むうち、それまで苦手だったものが少しずつ身に着いてきましたが、特に忘れられないのが、逆上がりと跳び箱です。
逆上がりは足で蹴り上げるのではなく、懸垂のように腕を持ち上げ、ぽんと足を上に上げてごらん。そう言われるままにやってみたら、体がくるりと回って、その瞬間、世界が一変しました。跳び箱も、まずは助走なしに箱の上に飛び上がってみなさいと言われて、それができたら少しずつ長く助走し、そのうち飛び越すことができるようになった。できたと思うと楽しくなってきて、夢中で練習するから体育も得意になったし、勉強も毎日夜中まで頑張り、100点が取れるまでになりました。“ハマると執着する”のも、アスペルガーの特徴なんです。
―― ご両親は、西川さんの症状をどう捉えていましたか?