本代と映画代はいくらかかってもいい

西川司・著『向日葵のかっちゃん』(講談社文庫)
西川司・著『向日葵のかっちゃん』(講談社文庫)

西川 子どもは一人娘なのですが、生まれてくる前は正直、自分と同じような面倒臭い子が生まれたらどうしよう、と怖かったですね。でも妻が体が弱かったこともあって、誕生すると腹をくくり、打ち合わせも外出する仕事も全部断って、娘が5歳になるまでずっと一緒に過ごしました。おむつ替えやお風呂、散歩はほとんど僕がやりましたね。

 妻に頼んだのは、毎日、本を読み聞かせてあげることです。そして大きくなってきたら、本代と映画代はいくらかかってもいいから、好きなだけ本を読ませ、映画を見せてやってほしいと言いました。本と映画は、世の中がどういうものか、人間にとっていいこと、悪いことを教えてくれるものだから、それさえ学んでおけば学校の勉強はできなくてもいい。いつか必要になれば自分でするようになるんだから、と。

 もう一つ心がけていたのが、“自分で決めさせる”ということです。娘を肩車して散歩していても、道が分かれていたり、行き止まりになっていたりすると、どっちに行こうか、この壁を乗り越えていくか?と聞きましたし、何でも自分で決断させました。

 その結果は…、見事に勉強しない子に育ちましたね(笑)。地元には入れる高校が無さそうだということで、妻には「あなたがそういう教育をしたからよ」と言われましたが、僕はそれでいいじゃないかと言って、娘には「20歳までは面倒を見るから、それまでにやりたいことを見つけなさい」と言いました。そうしたら、自分から留学したいと言い出して手続きし、アイルランドの高校に行きましたね。それからカナダの高校に転校してアメリカの大学に行き、ドイツの会社に就職。昨年の秋に帰国しまして、今は東京で翻訳と通訳、モデルの仕事をしています。

―― 自分の子どもに発達障害が見つかったり、その疑いがあるということで悩んでいたりする親御さんたちに、アドバイスをいただけますか?

西川 自分の子どもなのだから、腹をくくらないと駄目ですよ。その子のいいところを見て、それを伸ばす環境をつくってあげる。あとはハラハラドキドキなんだけど、腹をくくって見守るということしかないだろう、と僕は思います。下手に“転ばぬ先のつえ”を差し出そうとすると、それは子どもには重荷になってしまう。講演会をやっていると、自分の子どもに発達障害が見つかって、がくっとなっている親御さんがたくさんいらっしゃるけど、僕は彼らに、“でも、子どもはかわいいでしょう?”と聞くんですよ。かわいいなら、ただかわいがってあげればいい。

 親に色々してもらうと、それは子どもを逆に苦しめてしまいます。そういう子は気持ちをうまく言葉にすることができませんから。そうじゃなくて、ただかわいがって、いいところを褒めて見守ってあげてください。そうすれば、その子はそれだけで幸せなんです。僕はそう思います。

(文・ポートレート撮影 松島まり乃)