ポスト『Hey Stoopid』は、驚きの1曲だった
というわけで、クルマに乗るたび、虎から「ヘイヘイヘイにして」とおねだりされるたびに「しょうがねえなあ」とか「よく飽きねえなあ」とかこぼしつつ、実は嬉々として「おい、そんなアホな」なるタイトルのリピートを続けた父親だった。
ところが、夏休みに入ってしばらくすると異変が起きた。
朝、クルマに乗り込み、いつものようにいつものメロディを流そうとすると、虎がストップをかけてきたのである。
「パパ、それじゃない」
「え? じゃなに?」
「ヘイヘイヘイの前のやつ」
「ヘイヘイヘイの前のやつ?」
「前のやつ!」
仕方がない。アルバムの2曲目に入っているいつもの曲ではなく、1曲目の『ポイズン』という曲をかける。たぶん、アリス・クーパーの曲の中でもっとも売れたナンバーのひとつである。
ギュイ~~~ン!とエレキが泣いてミュージック・スタート。
「うん、それそれ!」
これ以降、虎は『ポイズン』しか聞きたがらなくなった。あれほど好きだったステューピッドさんはあっさり見限られ、実は結構気に入っていた様子だった『Love's a Loaded Gun』も切り捨てられた。
ひたすらに『ポイズン』一択な毎日が始まった。
どれほどひたすらだったかというと、先日、虎と2人で神奈川県の油壷というところに行ったときは、到着するまでの2時間半、延々と車内では『ポイズン』が流れ続けた。4分30秒ほどの曲だから、33回ほどリピートされた計算になる。
もちろん、運転してる側からするといい加減飽きてもくるから、『ポイズン』が終わっても知らんぷりしてステューピッドさんが始まるのを待とうとする。ところが、オープニングのドラムが聞こえてくるより前に、虎が叫ぶ。
「もう1回!」
言うまでもなく、今のところ英語はまったくしゃべれない我が家の息子ではあるが、これだけ同じ曲を繰り返し聞いていると歌詞が頭に入ってくるらしい。自宅を出て、神奈川県に入ったあたりから、歌える部分がどんどんと長くなっていった。