保育士の“士(さむらい)”が頭数いればいい
日経DUAL編集部 前回の記事で、保育の質を悪化させている要因について伺いました。改めて、保育の質が悪化するというのは具体的にどのような状況なのでしょうか。
小林 保育士が時間的、精神的に追い詰められることで現場に余裕がなくなってしまう状況で、そうなると子どもに対する精神的虐待が起こります。私が様々な保育園を取材してきたなかで感じるのは、そのような現場が確実に増えてきているということです。
例えば、取材したある園の2歳児クラスでは、朝の会で保育士が話している最中に子どもが友達のほうを見ていました。すると、その保育士は「○○くん、ふざけないで。立っていなさい」ときつく子どもを叱りつけ、立たせていました。
本来ならば、子どもの近くに寄って「どうしたの?今はこうする時間だよ」と繰り返し伝えることで信頼関係ができ、「あの先生が言うから、しっかり話を聞こう」となるのが理想です。けれど、その保育士は、子どもの成長を考えると厳しく注意し罰を与えるのが当然だと、自分を正当化していました。
他にも「みんな話を聞かないから、今日は散歩に行きません」「何度言っても、なぜ分からないの!」など、本来はもし親がそう言っているのを聞いたら保育士が注意すべきような言葉を、保育士の立場で言ってしまう。当たり前のことがすっぽり抜けているような感じを受けました。
―― 現場の余裕がないとはそういうことなのですね。
小林 保育園の増設が進み、保育士を確保するのが困難な時代です。かつては保育士試験で落ちていたような人も、以前より簡単に受かってしまう。保育士不足を解消するためには、“士(さむらい)”が頭数いればいいのです。
一方で、良い保育士ほど辞めてしまう傾向があると思います。何時何分までに散歩に行って着替えをさせて…とスケジュールをきっちり守る保育士が良い保育士とされるなかで、時間をかけて子どもひとり一人に丁寧に対応する人は異端児になりがちです。だんだん居づらくなったり、自分が思い描いていた保育とのギャップを感じたりして、結局は辞めていってしまうのです。