家事・育児の負担を可視化するだけで気持ちがラクに

林田 ということは、スケジューラーで情報共有することによって、夫が「言わなくても気付いてくれて、自発的に家事・育児に取り組むようになり、妻のストレスが減った」ということになるのでしょうか。結果的に妻のストレスの原因である「家事・育児の分担」も、夫のストレスの原因だった「夫婦間でのコミュニケーション」も解決されたということになりますね。

山本 そうですね。こんな結果になったことには、恐らく二つの要因があります。一つは、実際に夫の家事・育児への関わりが増えているという物理的な部分。もう一つは、スケジューラーで情報共有することによって、夫側も日々妻が何をやっているかを知ることができ、妻側も夫が知ってくれていることが分かった。そのうえで夫が「ここは自分が担当するよ」と自分からコミットしてくれるのであれば、家事・育児の分担が完全にフィフティーフィフティーではなかったとしても、妻側の負担感も軽減はされる、ということではないでしょうか。

林田 なるほど。家族社会学では、量的公平感と情緒的公平感について議論されるのですが、それと似ていますね。家事・育児の分担を完全に半々にすることは現実的には難しいけれど、お互いが何をどれだけ担っているかを認識し、負担感を共有することで、情緒的、つまり気持ちの部分で公平感を感じられるということでしょう。スケジューラーを利用することで、お互いにどれだけの量の家事・育児を負担しているかを認識し、実際に家事・育児を共有する量が増えることで、量的公平感と情緒的公平感の双方が相乗効果的にアップするというわけですね。

山本 そうですね。「知ってくれている」だけでも気持ちが落ち着くという人は多い気がします。仮に夫婦でコミュニケーションする時間があったとしても、すべてのことを話して共有するのは正直面倒ですよね。「私はこんなにやっている」と面と向かって言うのも、言われるのもなんだか気が進まないという人も多いと思います。

 それが、スケジューラーに入れておけば、常に見えるところに情報があって、情報だけでなくマインドシェアもできている状態にあることが重要なんだと思います。

林田 わざわざ忙しさをアピールしなくても、スケジューラーに入れることで夫に伝えることができ、夫も妻に言われなくても気付くことができる。そういう意味では、妻の「言わなくても察してほしい」という気持ちを、スケジューラーがかなえてくれているとも言えるかもしれません。「空気読んでよ」の「空気」の役割をスケジューラーが果たしてくれているというか。

山本 夫婦の家事・育児分担というと、どうしても「意識」の話になりがちですが、足元のオペレーションから変えていくことが必要で、それを変えていくことで意識も変えていけると考えています。

林田 次回は、より具体的なテクノロジーの活用法について伺います。

(撮影/谷本結利)

山本裕介

Google合同会社ブランドマーケティングマネージャー「Womenwill」プロジェクトリード。2004年、東京大学社会学専修課程卒。大手広告代理店などの経験を経て、2011年Google入社。テクノロジーによる女性活躍や働き方改革を推進する「Womenwill」、デジタルでの地域経済活性化を目指す「Innovation Japan」などのマーケティングを担当。内閣府男女共同参画局専門調査会委員。リモートワークを活用し、世界遺産の知床から働くなど新しい働き方に自らもトライ。5歳と2歳の二児の父。