―― 夫との関係性がうまくいっていることも、イライラしない理由でしょうか?

山崎 私は子どもと一緒にいてイライラしない、と言っていますが、24時間一緒にいるわけではありません。さすがにずっと一緒にいたら、イライラするかもしれません。

 夫に子どもを預けてカフェで仕事をする時間もしょっちゅうあるし、いまは一時保育に預けて仕事をする日もあります。特に、睡眠も細切れで精神的にもつらい産後1~2カ月のころに、1時間でも散歩できると全然違うと思います。

妻のほうが収入が少なくても、仕事をしているなら誇りを持っていい

 赤ん坊を夫や保育士さんに任せるときに、後ろめたさを感じて、子どもに謝る人もいるそうだが、私は仕事のことで赤ん坊に謝ったことはない。
 夫に赤ん坊を任せてカフェへ行くときは、
「じゃあね、仕事してくるね。親が仕事したほうが、△△(赤ん坊の名前)も幸せになるよ」と言い置いて出かけている。男性が堂々とやっていることは、私だって堂々とやる。胸を張って仕事をして何が悪い。親の仕事が子どもに不利益なんて聞いたことないぞ。

――「母ではなくて、親になる」本文より

―― 働く母親のなかには、子どもを保育園に預けることに葛藤を感じる人もいます。

山崎 私も一時保育で子どもを預けるときに、離れ難いとか寂しいとか思うし、欲望だけで思えば24時間子どもと一緒にいたいと思います。でも、それはごはんをお腹いっぱい食べたいという欲望と同じで、欲望通りにするとものすごく太ってしまい、不健康になってしまう。

 子どもと一緒にいたいだけいるよりは、自分の精神安定のために仕事をしたり、生活の基盤を作るためにお金を稼いだりすることは必要。冷静に考えれば、子どもと一緒に過ごせる時間は数年で、その後の人生が長いことを考えると、妊娠・出産を機にキャリアを捨てて、その後も不満を持たないという自信はないじゃないですか。

 いま頑張って仕事をしたほうが、子どもにとっても自分にとってもいいと思います。加えて、自分の欲望のために仕事をしているわけではない、という自負があるのかもしれません。

 小説を書いているというと、芸術的なことをしている、と思われることもありますが、私の場合はそうではなくて、コツコツ続けていくのが作家だと思っています。

 子どもをときどき私ではない人に見てもらいながら、自分が小説を書いて仕事をする。夫も仕事をしていて、いい収入があるとか、ものすごく評価されているとかではないけれど、大事で続けなければいけない職業です。コツコツ続けることにはすべて意味がある、というのが夫を見ていてだんだん々分かってきて、あまり評価されていない自分の小説にも自信が持てるようになってきたので、これでいいんだ、と思えるようになりました。