預け先が決まらなければ働き手も戻ってこない、とあって企業側も待機児童問題の対策に本腰を入れつつある。その中でも注目される企業内保育所。その歴史は既に40年を超えるという順天堂大学の企業内保育所は、現在は地域の一般区民の利用枠も確保されている開かれた保育所だ。「保育シェアリング」を取り入れたり、廃校になった小学校の跡地を活用したりと、工夫の多い「順天堂もとまち保育所」を訪れた。

40年の歴史を持つ病院運営の保育所

 全国に4つのキャンパスと6つの附属病院を備える順天堂大学。その本拠地である東京・文京区の順天堂大学病院から徒歩2分のところにあるのが、事業所内保育所「順天堂もとまち保育所」。廃校となった小学校跡地へと8年前に移転してきたが、実は40年以上の歴史を持つ保育所だ。

外からは小学校にしか見えず、保育園があるとは気づきにくいくらいの守られた空間
外からは小学校にしか見えず、保育園があるとは気づきにくいくらいの守られた空間

 「私は開所当時から勤務していますが、当初は子どもがたった5人くらいでした。勤務時間が不規則な医師や看護師など、女性教職員の福利厚生としてスタートしました。当時は女性がフルタイムで働くことはまだ一般的ではなかったので保育所自体も少なく、先に院内保育所を運営していた東大病院のたんぽぽ保育所や小児科などで研修をして学んだものです」

と、所長の坂井昭子さん。この保育所とともに約40年ずっと歩んできた。

 学内の利用者は、医師、看護師が多いが、大学院生や助手など正規職員以外もおり、さらに福利厚生のため、学内の利用者は割安で済む。学内でも利用希望者は多く、キャンセル待ちもいっぱいだという。

 「今でこそ事業所内保育所は増えてきましたが、まだ全国的にみると少ないようです。この保育所があるから『安心して子どもを預けられる順天堂で働きたい』という方もこれまで多くいらっしゃいました」(坂井所長)

 事業所内保育所というとその企業の社員や職員に利用が限られている場合が多いが、この園は所在地である文京区の区民にも枠が割り当てられ、一般の利用者も希望することができる。現在は、全73人の枠のところ、学内43人、一般30人と割り当てを決めて受け入れているが、共に希望者は常に定員以上に殺到してしまうという。

 「希望が多いのは、やはり待機児童の多い0、1歳なのですが、保育士の人数も多く必要なため現在の配分に落ち着いています」と、運営を行っている順天堂大学人事部の下原豊さん。認可外保育所のため各年齢の定員は流動的ではあるが、現在は0歳20名、1歳10名、2歳15名、それ以外が3〜5歳という構成になっているそう。

小学校の廊下や教室の作りを生かしているおかげで広いスペースが確保できている
小学校の廊下や教室の作りを生かしているおかげで広いスペースが確保できている