5歳と4歳の子どもたちを育てながら、デジタルマーケティング会社で室長として働く多香実。

一見、仕事も充実し、子育ても満喫している今どきのワーママのようだが、実際は子育ても家事もほぼ自分でやらなければならない“ワンオペ状態”だ。夫の秀介は家事育児をしない上に、横柄な態度。そんな夫に怒りを覚え、最近は怒りすら超えて、冷め切っている自分を感じる。

週末の今日は、大学時代の友人である千恵の家に、子連れで遊びに来ている。

『さしすせその女たち』 今回の主な登場人物

◆米澤多香実(よねざわ たかみ) 39歳/ デジタルマーケティング会社「サンクルーリ」ソーシャルマーケティング部クライアントオペレーション室 室長
◆米澤秀介(よねざわ しゅうすけ) 40歳/食品メーカー営業職 課長
◆米澤杏莉(よねざわ あんり) 5歳/みゆき保育園年中クラス
◆米澤颯太(よねざわ そうた) 4歳/みゆき保育園年少クラス

◆秋山千恵(あきやま ちえ) 39歳/多肉植物の栽培・販売会社でパート勤務
◆秋山茂樹(あきやま しげき) 47歳/銀行員
◆秋山希(あきやま のぞみ) 12歳/私立女子中学に合格

 週末土曜日、大学時代の友人である、秋山千恵の家に遊びに行った。千恵の娘の希(のぞみ)が、希望の私立中学に合格したのだ。今日はそのお祝いも兼ねて、子どもたちを連れて出かけた。

 千恵と多香実は同じ沿線に住んでおり、子どもができるまではよく行き来していたが、今は半年に一度会えばいいほうだ。LINEではしょっちゅうやりとりしているので、実際会っても、久しぶりという感じはしない。千恵の家は一軒家なので、つい千恵の家にばかり行ってしまう。

「杏莉ちゃん、颯太くん、こんにちは。また大きくなったわね」

 ひさしぶりなので、杏莉も颯太ももじもじしている。子どもにとっての半年間は大きい。

「ほら、ご挨拶して。こんにちは、でしょ」

 多香実に促されて、杏莉がこんにちは、と言う。颯太は多香実の足に隠れている。

「こんにちはー」

 希が2階から降りてきた。

「希ちゃん、中学合格おめでとう! すごいわ。本当によかったね。うんとがんばったものね。合格って聞いたときは涙出ちゃった」

 希が受験したのは、誰もが知る有名女子中学校で、ずいぶんと勉強していると聞いていた。千恵も親として、いろいろと大変そうだった。

「はい、これ。希ちゃんの好きなチョコレートケーキ」

「わあ、どうもありがとうございます! うれしい」

 千恵に、希の好みを事前に聞いて予約しておいた。ケーキを持ちながら、園児を2人連れてくるのは容易ではなかったが、杏莉に言い含めたら颯太の面倒をちゃんと見てくれて助かった。

「今日は茂樹さんがいないから、ゆっくりしていってね。仕事が忙しいみたいで出勤したわ」

 千恵が小さくウインクを寄こす。

「そうなんだ。わたしたちが来ると、茂樹さんいつも気を遣ってくれて、2階にいてくれたり出かけたりしてくれて申し訳なく思ってるわ。もしかして、わたしたちが来るから仕事に行ったとか?」

「あはは、まさか」

 千恵が笑って手を振る。茂樹は千恵の夫で銀行員だ。千恵より8歳年上の47歳。千恵とは社内結婚だった。とても穏やかでやさしくて、顔を見るだけでほっとできるタイプの人だ。

<次ページからの内容>

・「うち、今ケンカ中」

・「自分ばっかり損してる気にならない?」

・「魔法の言葉さしすせそ、よ。」

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椰月美智子
椰月美智子 やづき・みちこ。1970年生まれ。小説家。02年、『十二歳』で第42回講談社児童文学新人賞を受賞し、デビュー。07年『しずかな日々』で第45回野間児童文芸賞、第23回坪田譲治文学賞をダブル受賞。その他の著書に、『るり姉』『恋愛小説』『その青の、その先の、』『14歳の水平線』『かっこうの親 もずの子ども』『フリン』『伶也と』『坂道の向こう』『メイクアップ デイズ』『明日の食卓』『消えてなくなっても』など多数。幼年童話『チョコちゃん』『チョコちゃんときゅうしょく』もある。小学5年生と3年生の男児の母。

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