歯科医の倉治ななえ先生による乳幼児の親向けの勉強会が、7月にピジョン株式会社で行われました。勉強会では、歯の健康について関心の高い0~1歳前後の子どもを持つママ・パパを招き、早期から始める親子一緒の乳歯ケアをテーマに倉治先生が解説しました。参加した親たちからも熱心な質問が飛び交う、熱のこもった勉強会となりました。そこで今回はその様子をリポートします。倉治先生が始めた「子育て歯科」の観点から、ミュータンス菌、フッ素、キシリトールといったキーワードや赤ちゃん時代からの乳歯ケアの大切さについて、私たちも勉強していきましょう。

なぜ、歯みがきは「1本目が生えてから」の早期スタートが大切?

 私が開業したのは約30年前、長女が生まれたその日でした。そこからたくさんのお子さんの歯を診てきて分かったことは、子どもの健康な歯を育てるには、子育てそのものが大切なんだということでした。そこから生まれた「子育て歯科」とは、子どもが歯と口の健康のために持っている力を最大限に引き出す育て方、生活習慣のこと。実は歯科の教科書には書いていないことばかりです。子育てを重視した小児の歯科保健の考え方のお話を今日はしたいと思います。

 「8020運動」という言葉を聞いたことがあるかと思いますが、これは80歳で20本の歯を保とうというものです。歯が丈夫で、自分の歯がたくさん残っている人ほど長生きするという研究データがあります。さらに、単に、寿命だけの問題ではなく、歯が全くない人が認知症になる危険性は、歯が残っている人の約2倍というデータも。歯が多い人ほど、成人病になりにくい、または入院日数が少ない、寝たきりになる率が低いなど、健康な老後を迎えるには歯が大事ということが証明されているのです。こうして死ぬまで健康に生き抜くための歯を、育て始める第一歩は乳歯なのです。きれいな乳歯を育てておけば、その後生えてくる永久歯も美しいのです。

 この一生使う歯の基礎となる赤ちゃんの乳歯は、実はとてもむし歯になりやすいのです。乳歯と永久歯を断面で比較すると分かるのですが、神経は乳歯のほうが大きいのに、神経を覆っているエナメル質も象牙質も薄いのです。まるで薄皮まんじゅうのようです。初期のむし歯は削らずに治すことができるのですが、ひとたびむし歯になってしまうと、乳歯の場合はすぐに神経にまで達してしまいます。

 乳歯にむし歯ができてしまうと子どもの一生にどんな影響があるでしょうか。まずむし歯になると、痛いのでかまない・かめないということが起こり、アゴの骨が十分に育たなくなります。アゴを動かさないので骨芽細胞に十分な栄養が届かないためです。こうなると乳歯よりも大きな永久歯が生えてくるスペースを確保することができなくなり、歯並びが悪くなる可能性が非常に高くなります。それだけでなく、脳の成長にも影響します。上アゴは頭蓋骨の一部、脳の入れ物にもつながっているからです。歯が全くない人が認知症になる率は、歯が20本以上残っている人の約2倍との研究報告もあるように、かむことと認知症には関係があるのです。また、よく噛むと脳の血流が増すことも分かっています。皆さんも、眠気覚ましにガムをかむと、頭がスッキリしたという経験があるのではないでしょうか。歯と脳は、位置関係からみても近い存在ということが分かりますね。

 それでは、むし歯はどうしたら食い止められるでしょうか。