「みんなが学校に通っているのに学校に行けない自分はダメな子だ」など、学期中は罪悪感を感じていた子どもたちも、夏休みはそんなうしろめたさから解放されて、明るい表情を見せているかもしれません。けれども、不登校や不登校ぎみの子をもつ親の心は、「2学期から学校に行ってくれるのかしら」とやきもきしているのではないでしょうか。

不登校特集の第2回めは、親たちが知らない子どもたちの学校生活と心の中を心理カウンセラーの内田良子さんに、夏休み中の子どもの本音を不登校新聞編集長の石井志昂さんにお聞きします。まず最初は、不登校や引きこもりのグループ相談会「モモの部屋」を主宰し、親や子どもたち本人とたくさんの不登校を共有してきた内田さんのお話です。

【年齢別特集 小学校低学年のママ・パパ向け】
第1回 小学生の不登校は過去最多 低学年の子どもたちは 
第2回 「明日は行く」は絶望の言葉 不登校児の本音は?←今回はココ!
第3回 不登校児の「行きたくない」受け入れる自信はある?
第4回 ひきこもりが心配 不登校児の親ができる7つのこと
第5回 学校へ行きたくないあなたへ 味方はココにいます

子どもの成長に伴い、ママやパパが抱く育児の喜びや悩み、知りたいテーマは少しずつ変化していくものです。「プレDUAL(妊娠~職場復帰)」「保育園」「小学校低学年」「高学年」の4つのカテゴリ別に、今欲しい情報をお届けする日経DUALを、毎日の生活でぜひお役立てください。

内田良子(うちだ・りょうこ)さん
子ども相談室『モモの部屋』主宰。心理カウンセラー。心理相談員として乳幼児の子育て相談にたずさわり、1973年より東京都内の複数の保健所、佼成病院小児科で心理相談員を務める。NHKラジオの電話相談「子ども教育相談」「子どもの心相談」を長年担当。『モモの部屋』では登校拒否・不登校・ひきこもりなどのグループ相談会を開いているほか、全国各地にある登校拒否を考える会・市民の会・教職員の学習会・子育て支援の育児サークルで講演会や相談会を行っている。著書に『登園しぶり 登校しぶり』『子育てはなぞとき』(共にジャパンマシニスト社刊)、編著に『子どもたちが語る不登校』『親たちが語る登校拒否』(共に世織書房刊)など。

低学年の不登校は、保育園・幼稚園時代を引きずっていることが多い

 小学校低学年の子どもたちが「学校に行きたくない」と言ったり、登校しぶりをするときは、ほぼ一定の割合で幼稚園や保育園時代を引きずっている子がいます。

 幼稚園や保育園に通う年齢の子どもたちが園に行きたくないと思ったら、最初のうちは「嫌だ」「行きたくない」などはっきりと言葉に出して訴えます。

 その訴えに対して、保育園に通う子の場合、親は仕事を休むわけにもいかないので、子どもが泣いても抵抗しても、行ってもらわなければ困る、行って欲しい、行きなさいと、かなり強制的に園まで連れて行くことになります。

 幼稚園の場合も同じです。保育の現場は今、幼稚園・保育園の段階で不登園を認めると、小学生になって登校拒否・不登校になるという考えがあるので、先生たちは登園しぶりがあっても休ませないよう指導されています。そのため「たとえ子どもが泣いてもわめいても、とにかく連れてきてください」と言う先生方が圧倒的多数なのです。

 そして、親のほうも子どもが泣いて行きたくないと言ったときに、「そうか、行きたくないんだね。幼いながらも事情があるんだろうね。聞かせてちょうだい」と言ってあげられることはほとんどありません。

言葉だけでなく、態度で示しても封じられてしまう

 子どもたちは、園に行くのがつらい、朝なかなか起きてこない、朝ご飯を食べない、着替えをしない、制服を着せると脱ぐ、帽子をかぶせると投げ飛ばすなどして、行きたくない気持ちを態度で示しますが、大人たちによってそれもことごとく封じ込まれてしまいます。

  すると子どもは、言葉や態度でいくら嫌だと訴えても、大人は誰も受信してくれないということを骨の髄まですり込まれ、子どもの辞書には「嫌だ」「行きたくない」の言葉がないことを悟ります。親と先生がなんとしてでも園に行かせようと連携するのですから、子どもは自分の無力さを思い知らされるわけですね。

 「嫌だ」「行きたくない」「困ったことがある」と言えなくなり、行きたくない気持ちを自分の中に封じ込めて、大人の言うことに従うという身の処し方をすり込まれた子どもたちが小学校に入学すると、今度はそこに過酷な現実が待っています。

 幼稚園・保育園時代には、子ども主体の遊びのある生活がある程度、尊重された集団生活がありました。ところが、小学生になると、それが一気に切り替わり、自分の椅子に座って45分間、先生の言うことにじっと耳を傾け、静かに学習に集中しなければなりません。

 それは親世代が子どもの時もそうでした。しかし、文部科学省が脱ゆとり教育に舵を切って以降、学校生活の過酷さは増す一方で、子どもたちの身には親の目に見えにくいさまざまなしわ寄せが押し寄せています

 その過酷さとはいったいどんなことなのでしょうか。

<次ページからの内容>
・ 休み時間や給食の時間が短くなっている!
・ 宿題をやりきれないと叱責される
・ 子どもは学校に行っても勉強ができるコンディションではない
・ 不登校の理由は問わず、教室に戻すのが学校側の至上命題
・ 子どもの自殺が最も多いのは、夏休み明けの9月1日
・ 夏休みの前半は、気持ちがラクになっている
・ 不登校を経験した子が一度は口にする、滅びの呪文「明日は行く」
・ お盆が明ける頃から、緊張感が高まってくる