前回までは、2045年問題を越えていける大人になるために、日本語、英語、プログラミング言語のトライリンガル教育を行うYES International Schoolについて、創立者で校長の竹内薫さんに話を聞いてきました。確かに、1日中英語漬けになるスクールに通えば自然と話せるようにもなるでしょうし、算数も理科も英語で授業を受ければ英語で考える脳もできるでしょう。でも、そういうスクールが近所になく、自分たちでバイリンガル教育をしたいと思ったら、どうしたらいいでしょう。そもそもバイリンガルとは何なのかについて、竹内薫さんに聞きました。

【YESインターナショナルスクール学校長 竹内薫さんインタビュー】
(上)娘のためにトライリンガル教育のスクール創った理由
(中)“英語で算数を考える子”を育てる小学校の教育
(下)「バイリンガル教育は赤ちゃん時代から」の真偽 ←今回はココ!

ネーティブスピーカーの子どもが育つのと同じプロセスで学ぶのが王道

学校長でサイエンス作家の竹内薫さん
学校長でサイエンス作家の竹内薫さん

 まず、私自身がどうやってバイリンガルになったかについてお話しします。私は小学校3年生のとき、父の転勤でニューヨークの小学校に通うことになりました。ある日突然、日本語100%の生活から、英語100%の生活になったわけです。そこでは、言葉が通じないと何もできませんでした。学校で友達とあいさつもできなければ、カフェテリアでサラダも選べない。バスに乗ることもできない。向こうのバスは何にも書いてないから、どこ行きなのか、目的地には止まるのか、直接運転士に聞かなくちゃならないんです。言葉ができないとコミュニケーションがとれないし、生活そのものができないわけですから、ほんとうに必死でした

 そんな追い込まれた状況の中で、私は半年間ほとんどしゃべることができませんでした。でも、半年間全く英語が理解できなかったのかというとそうではなく、その間、英語力を蓄積していたんですね。まさに「サイレント・ピリオド」(語学を習得し始めるときに言葉をインプットするための沈黙の時間)でした。ひたすら聞いてインプットして、あるときから会話ができるようになりました。これは第2回の記事でキャリー先生が話してくれた子どものエピソードに近い経験だと思います。

 外国語を体得するのに最適なのは、母国語を覚えるときと同じプロセスなんです。つまり赤ちゃんがしゃべれるようになるまでのプロセス。初めはインプット=ひたすら聞くだけで、理解ができたとしてもまだしゃべれない。でも、いつかアウトプット=しゃべり始めるときが来ます。ピアノに例えると分かりやすいんですが、たくさんピアノの名演奏を聞いたとして、聞いているだけではピアニストにはなれませんよね。実際にピアノを弾いて、演奏する=アウトプットすることで習得していく、これと同じです。言いたいことが言えるようになるまで、間違えてもいいから毎日使うことで、言いたいことが言えるようになっていきます。インプットと同じくらいアウトプットしないと、技能は身に付いていかないわけで、聞くだけではしゃべれるようにはなりません。それを毎日やって半年くらい経つとやっと言いたいことが言えるようになるわけです。

英文法は後から覚えればOK。まずは聞いて、しゃべることから

 学術的な難しい英語の単語はラテン語が語源のものが多く、普段しゃべっている言葉とは少し異なります。普段は、簡単な単語を組み合わせることで言葉が成り立っています。例えば、eye doctorは眼医者さんですが、ophthalmologistは眼科医です。日本語に例えたら大和言葉と漢語のようなものです。漢語は学術書などでは多用されますが、普段の会話ではあまり使いませんよね、それと同じです。

 話せる・使える英語力を身に付けるためには難しい言葉は必要ありません。覚える単語数は少なくてよく、その組み合わせで会話ができます。だから、たくさんしゃべることで話し言葉は強化されます。こうして会話ができるようになることが先決で、難しい単語を使って文法的にも正しい「高品位」な英語力は後からつければいいはず。日本の受験勉強型の英語は逆なんですね。読めるし書けるけれど、話せない日本人が多いのは、簡単な言い回しを身に付けていないからです。だから、ネーティブの人とは逆で、英語のニュースサイトは読めるし理解できるのに、急に英語で道を尋ねられても答えることができない、という現象が起こるのです。

 英語がネーティブの子どもは、まず簡単な言葉から覚えます。だんだん年齢が上がるにつれて、それに対応する難しい言葉や言い回しを覚えていきます。これは日本語だって同じでしょう。楽な方法から入るのが語学の王道だと思います。