起業するまでの経緯や仕事と家庭の両立についてなど、多くの壁を乗り越えてきたママ起業家や社長にインタビューする「私が壁を乗り越えたとき」。第10回は、プレスリリース配信・PR情報サイトを運営する株式会社バリュープレス代表取締役の土屋明子さんを紹介します。

 土屋さんは、2児の子育てをしながら、プレスリリース配信サービスを行う会社を経営しています。オンラインで誰でも利用でき、国内最多の48000社が利用しています。

 前編の「土屋明子 社会人5年目で社長に そして突然の妊娠」に続き、今回は社長になってから取り組んできたことや、2度の出産、社長業との両立や挫折について紹介します。

東日本大震災で気付いた、経営者のあるべき姿

 社会人4年目で突然子会社の取締役を任されることになった土屋さん。その半年後の2011年にクラシックコミュニケーションを設立し、完全に独立。そんな矢先に東日本大震災が起きました。

 「社長になったものの、前からのメンバーを引き連れて一緒にやっていく形だったので、あまり会社をつくったという感覚はなく、引き続き今まで通りのことをやるという感じでした。けれど、クラシックコミュニケーションを設立した直後、東日本大震災が起きて。そのとき、同業のニューズ・ツー・ユーの代表(当時)の神原さんが、震災が起こった3日後に、すぐに震災情報をまとめる情報コーナーと、震災に関するリリースの無償掲載を受け付けていました。それを見て、ものすごくショックを受けました」

 「そのとき私は、社員の安否の確認や出社状況の把握、今後のサービス運営のスタンスなどを考えていたのですが、会社として社会に対してどういうことができるのかということを神原さんは震災が起こったときに第一に考えて行動に移していて。こういうことが経営者なのだなと思って、意識を変えなくてはいけないと思いました。まねでもいいからうちでできることをやろうと、プレスリリースの無料対応を行いました」

 クラシックコミュニケーションを設立した約1年後の2012年、バリュープレスと事業統合をし、バリュープレスの社長を任されることになります。

 「当時、バリュープレスの社員数は10人ちょっと、私たちが4~5人だったので、15人ぐらいの会社になりました。いままで一緒に協力関係でやってきたこともあり、比較的スムーズでした。顧客数は、クラシックコミュニケーションのときは数百社だったのですが、一気に2万~3万社の規模にサービスを提供する形になりました」

 業界も拡大し、プレスリリース配信サービス自体はだいぶ認知されてきた一方で、活用用途に悩む企業も増えてきました。企業活動のパートナーとして身近に活用していただけるよう、マスマーケではない接点づくりを強化しました。

 「認知を広げていくために、イベントの協賛や提携を増やすことを中心に展開してきました。その中で、いかに接点に合わせたメッセージを伝えていくかということを意識してきました。例えば、クラウドファンディングのユーザーの場合、あなたのプロジェクトを成功させるためにPRをしましょう、ECサイトのBASEの場合は、ECショップの認知度を上げて広げるためにプレスリリースがありますよ、というふうに、用途に合わせて少しずつメッセージを変えています」

土屋明子 株式会社バリュープレス代表取締役

島根県出身。営業職としてマーケティング・プロモーション商材のセールスを通し、広報・プロモーションスキルに着目。リリース配信事業、イベント企画、講座主催を通しての人材育成など個人・法人を通して幅広く活躍。2011年プレスリリース事業を引き継ぎ、クラシックコミュニケーション株式会社設立、代表取締役就任。2012年株式会社バリュープレスと事業統合。2児の母。

メディアと対等なビジネスパートナーとしてやっていきたい

 さらに、『記者100人の声』という、記者・編集者などメディアを創る人々の素顔に迫るインタビュー企画を始めました。

 「プレスリリース配信サービスは、Webを使っているので、何となく書いて、何となくいろんなメディアに取り上げられればいいな、えいっ、みたいな感じで配信する方が多いのですが、受け取る側はみんな一個人。例えば同じメディア(媒体)もAさんとBさんは全然担当が違うし、興味も違う、みたいなことをあまり意識できないまま使っているお客様が多いのが、ものすごくもったいないと思っていました」

 「一方、過去に色々なメディアの記者を呼んで勉強会を開催したとき、メディアの方に『広報は全然メディアを見ない・読まないのに載せて、と言う』と言われました。一方で、メディア側も、自分たちはこんなメディアでこんな情報が欲しい、ということを言わないことが多いと感じていました」

 ここがミスマッチだと感じ、記者個人にフォーカスしてその人の情熱や思いをインタビューするという『記者100人の声』という企画を始め、2年ほど続けています。

 「子どものころは何が好きだったとか、どの芝居が面白かったとか、飲み屋で語ってもらう感じでインタビューをしています。広報の方々も見てくれていて、面白いと好評です。何より記者の方々が、最初は出たがらなかったのですが、だんだん実績が増えてくると、うちも取材に来てと声を掛けてくれて。記者に『書いてもらう』という意識の広報も少なくないですが、バリュープレスはあくまで対等なビジネスパートナーでいたいと思っています。『記者100人の声』を続けてきたことで、そのスタンスをメディアに理解してもらえるようになってきたと思います」