『さしすせその女たち』 今回の主な登場人物
帰宅し、いそいで風呂を沸かす。子どもたちのコートは雨粒を受け、ずしりと重くなっている。2人をファンヒーターの前に座らせ、濡れた服を着替えさせ、超特急で食事の支度をする。朝タイマーをセットしたのでご飯は炊けている。昨日の日曜にいくつかのおかずをまとめて作って冷凍してあるが、今日の分は冷蔵庫に入っている。レンジで温めればOKだ。手早く味噌汁を作る。
「はっくしょん!」
多香実は、濡れた服をまだ脱いでいなかった。布地がべったりと肌に張り付いている。モヘアのセーターはクリーニングに出さなければならないだろう。ジャケットも乾かさなければ。そうこうしているうちに、風呂が沸いた電子音がしたので、杏莉と颯太と一緒に風呂に向かった。
「ごはんは?」
「今日は雨に濡れちゃったから、先にお風呂入っちゃおう」
「おなかすいたよー」
「うんうん、お風呂出たら、すぐに食べようね」
多香実は2人を促して、風呂に入れた。赤ん坊のときに比べたら、入浴もかなり楽になったが、それでもまだ手がかかる。
杏莉はシャンプーハットをして自分で髪を洗い、石鹸を泡立てて身体を洗ったりできるが、颯太にはかかりきりで面倒を見なければならない。一人でやりたがるわりに、まったくできないので、つい大きな声を出してしまうことになる。
― 子どものやりたいことを尊重して、ゆっくりと待っていてあげてください ―
などとよく聞くが、そんなことを実践できている親が一体どれほどいるのだろうかと思う。
「わっ! ちょっと、なにしてんの、颯太」
目を離したすきに、颯太が石鹸を湯船に落としていた。先に入っていた杏莉が、あわだらけだよ、と非難の声をあげる。いそいで石鹸を拾い上げる。
颯太のことがひと通り終わってから、ようやく多香実の番となる。すっかり身体が冷え切っている。手早く髪と身体を洗い、湯船に浸かる。冷たい身体に熱い湯がじんとしみる。