5歳と4歳の子どもたちを育てながら、デジタルマーケティング会社で室長として働く多香実。

一見、仕事も充実し、子育ても満喫している今どきのワーママのようだが、実際は子育ても家事もほぼ自分でやらなければならない“ワンオペ状態”。

夫の秀介は保育園の送りさえろくにできず、お迎えとなると多香実がすべてやっている。今夜も秀介のせいでお迎えに手間取り、延長保育ギリギリになってしまった…。これから急いで夕食、お風呂、寝かしつけ、と怒涛の育児家事が待っている。

『さしすせその女たち』 今回の主な登場人物

◆米澤多香実(よねざわ たかみ) 39歳/ デジタルマーケティング会社「サンクルーリ」ソーシャルマーケティング部クライアントオペレーション室 室長
◆米澤秀介(よねざわ しゅうすけ) 40歳/食品メーカー営業職 課長
◆米澤杏莉(よねざわ あんり) 5歳/みゆき保育園年中クラス
◆米澤颯太(よねざわ そうた) 4歳/みゆき保育園年少クラス

 帰宅し、いそいで風呂を沸かす。子どもたちのコートは雨粒を受け、ずしりと重くなっている。2人をファンヒーターの前に座らせ、濡れた服を着替えさせ、超特急で食事の支度をする。朝タイマーをセットしたのでご飯は炊けている。昨日の日曜にいくつかのおかずをまとめて作って冷凍してあるが、今日の分は冷蔵庫に入っている。レンジで温めればOKだ。手早く味噌汁を作る。

「はっくしょん!」

 多香実は、濡れた服をまだ脱いでいなかった。布地がべったりと肌に張り付いている。モヘアのセーターはクリーニングに出さなければならないだろう。ジャケットも乾かさなければ。そうこうしているうちに、風呂が沸いた電子音がしたので、杏莉と颯太と一緒に風呂に向かった。

「ごはんは?」

「今日は雨に濡れちゃったから、先にお風呂入っちゃおう」

「おなかすいたよー」

「うんうん、お風呂出たら、すぐに食べようね」

 多香実は2人を促して、風呂に入れた。赤ん坊のときに比べたら、入浴もかなり楽になったが、それでもまだ手がかかる。

 杏莉はシャンプーハットをして自分で髪を洗い、石鹸を泡立てて身体を洗ったりできるが、颯太にはかかりきりで面倒を見なければならない。一人でやりたがるわりに、まったくできないので、つい大きな声を出してしまうことになる。

― 子どものやりたいことを尊重して、ゆっくりと待っていてあげてください ―

 などとよく聞くが、そんなことを実践できている親が一体どれほどいるのだろうかと思う。

「わっ! ちょっと、なにしてんの、颯太」

 目を離したすきに、颯太が石鹸を湯船に落としていた。先に入っていた杏莉が、あわだらけだよ、と非難の声をあげる。いそいで石鹸を拾い上げる。

 颯太のことがひと通り終わってから、ようやく多香実の番となる。すっかり身体が冷え切っている。手早く髪と身体を洗い、湯船に浸かる。冷たい身体に熱い湯がじんとしみる。