この季節になると、水難事故の報道が目につきます。警察庁の発表によると、2016年(平成28年)中の発生件数が1505件で水難者は1742件、死者・行方不明者は816人。このうち、中学生以下の子どもは、水難者が217人で、死者・行方不明者は31人でした。死者・行方不明者の発生した場所別に見ると、河川が 20 人で海が11人。行為別に見ると、約半数が「水遊び」で14 人でした。

 水遊びの季節、子どもの命を守るために教えておきたいのが「背浮き」による「浮いて待て」というサバイバルスイミング法。2020年度から、文科省の小学校新学習指導要領の体育科水泳領域において、高学年の技能項目に、現行のクロールと平泳ぎに加えて「安全確保につながる運動」として背浮きが組み込まれ、全国の小学校の水泳授業で「浮いて待て」の基本技能である背浮きを教えることになりました。今回は、溺れそうになっている子どもを助けるために大人ができることについて、東京海洋大学 学術研究院の田村祐司准教授にお話を伺いました。

救助を待つ間、浮き続けるための「背浮き」

東京海洋大学 学術研究院の田村祐司准教授
東京海洋大学 学術研究院の田村祐司准教授

――まず「浮いて待て」について教えてください。

田村さん(以降、敬称略) 「浮いて待て」とは、溺れたときに、背浮きしたまま救助を待つサバイバルスイミング法。海や川で溺れたとき、通報してから消防の救助隊が駆け付けるまでに約8分30秒かかります。その8分30秒間を浮いて待つために、「背浮き」による「浮いて待て」を身体で習得する必要があるのです。

――「背浮き」だと、なぜ溺れないのですか。

田村 水の比重は1.0で、人が空気を吸うと比重は0.98。空気を吸うと人は水よりも0.02(1.0-0.98)軽くなります。つまり、空気を吸うと体全体の2%だけ水の上に出すことができます。そして、背浮きをすると、鼻や口の部分がその2%になるので、鼻や口で呼吸ができるようになります

 背浮きをせずに「助けて!」と手を上げると、水面より上に出た手の部分が2%になり、顔は沈んでしまいます。この状態では呼吸ができませんから、溺れてしまいます。

 とはいえ、「背浮き」はすぐにできるものではありません。ある程度、慣れと練習が必要です。海に行く前に、プールなどであらかじめ背浮きの練習をしておくとよいでしょう(背浮きの練習方法については、「水辺の事故で生き抜く「浮いて待て」をプールで実践」の記事をご覧ください)。