保育園に通っていると、わが子の成長をつい、他の子と比べてしまうことがあります。近い月齢の子より「背が小さい」「太っている」といった身体にまつわるものから、「2歳になったのに言葉が出てきにくい」「他の子にバイバイと言われても答えない」といった行動的なことまで、様々な面でわが子の成長が遅れている気がして、不安になってしまったり。「個人差がある」「大きくなれば大丈夫」と周りの人に言われても、どうにも気になる症状もあるのではないでしょうか。

 もちろん、問題がない場合がほとんどで、就学時には気にならなくなることが多いでしょう。でももしかしたら、自分が知らないだけで、見逃せないこの時期ならではの兆候があるのかもしれません。

 今回はこうした「もしかしたら」の疑問の中から「言葉の発達」にかかわる「耳」の発達や疾患について、ひらやまクリニック耳鼻咽喉科 平山方俊先生に伺いました。

【年齢別特集 保育園のママ・パパ向け】
(1)声が大きい、聞き返しが多い子には難聴の恐れも ←今回はココ!
(2)普通の子に潜む斜視・弱視 就学前までが治療の勝負
(3)幼児期の肥満は持ち越すので早めの軌道修正を
(4)未就学児の発達障害 早期発見・介入で改善へ

 子どもの成長に伴い、ママやパパが抱く育児の喜びや悩み、知りたいテーマは少しずつ変化していくものです。「プレDUAL(妊娠~職場復帰)」「保育園」「小学生低学年」「高学年」の4つのカテゴリ別に、今欲しい情報をお届けする日経DUALを、毎日の生活でぜひお役立てください。

言葉の獲得に関わる「3歳の壁」とは?

「ひらやまクリニック耳鼻咽喉科」(東京都世田谷区)平山方俊院長。北里大学医学部卒業後、同大学病院、藤沢市民病院など各地の市民病院に勤務。医学博士。日本耳鼻咽喉科学会専門医、日本気管食道科学会認定医。耳鼻科一般にくわえ、気管食道科の診療にも力を傾ける。2006年、地域医療に貢献すべく「ひらやまクリニック耳鼻咽喉科」を開院
「ひらやまクリニック耳鼻咽喉科」(東京都世田谷区)平山方俊院長。北里大学医学部卒業後、同大学病院、藤沢市民病院など各地の市民病院に勤務。医学博士。日本耳鼻咽喉科学会専門医、日本気管食道科学会認定医。耳鼻科一般にくわえ、気管食道科の診療にも力を傾ける。2006年、地域医療に貢献すべく「ひらやまクリニック耳鼻咽喉科」を開院

 保育園に通う子どもの発達で気になることの一つに、言葉の発達があります。2歳になっても二語文が出ない、自分の名前が言えない…。実はこうした言葉の遅れには、聴覚障害が影響していることもあると、ひらやまクリニック耳鼻咽喉科 平山方俊先生は指摘します。

 「言葉という情報は耳から入り、それを表出するのですが、情報の入り口がふさがった難聴という状態だと、まず言葉に問題が出てしまいます」

 ひと口に難聴(耳が聞こえない、または聞こえにくい)といっても、治すことができるタイプと治すことができないタイプがあり、いずれの場合も「早期の発見が重要」だと言います。

 「耳はまず外側に耳たぶがあり、耳の穴があり、鼓膜があり、鼓膜の奥に中耳という骨に囲まれた部屋があります。鼻と耳は耳管というトンネルでつながっていて、本来は何も意識しなくても空気が入る仕組みで、中耳は本来空気しか入っていない、空っぽの部屋です。さらにその奥に骨でうずもれるようにして蝸牛(かぎゅう)という音を感じるかたつむりのような形をした神経があります。その上部に前庭と三半規管という、体のバランスを保つ神経があり、これらに聴神経がつながって脳に音の信号情報を伝達していきます」

出典:ウィキメディア・コモンズ (Wikimedia Commons)
出典:ウィキメディア・コモンズ (Wikimedia Commons)

 蝸牛の前の部分(外耳、中耳まで)に理由があって起こる、つまり耳垢や中耳炎、中耳奇形などが理由の難聴は「伝音性の難聴(伝音難聴)」といい、耳垢を取り除いたり、鼓膜に穴が開いていたら手術をして塞いだりすれば改善すると言います。

 一方、耳の奥の音のセンサー、つまり蝸牛に理由がある難聴は、どちらかというと治しにくい「感音性の難聴(感音難聴)」といい、こちらには先天性や突発性などが含まれ、治すことが難しく、だからこそ発見を急ぐのだと言います。

 なぜ発見を急ぐかというと、「そこには『3歳の壁』と言われるものがあるんです」と平山先生は言います。「言葉を獲得するためにはある程度の時間が必要で、その目安というのが3歳なんですね。耳は言葉を獲得するための大切なツールですから、難聴が発見できないまま時間が経つと、言葉が獲得できなくなるんです」

 万が一、感音性難聴だった場合でも、人工内耳が効果的なこともあるため、少しでも早い発見が必要になります。そこで現在では先天性の聴覚障害の発見を目的とした「新生児聴覚スクリーニング」(主に「自動聴性脳幹反応(Automated Auditory Brainstem Response:AABR)」と「耳音響放射(Otoacoustic Emissions:OAE)」)が行われることが多くなっているといいます(日本産婦人科医会によれば、2005年には国内の出生児の約60%が聴覚スクリーニングを受けている)。

 ただし、聴覚スクリーニングで100%、難聴が見つけられるわけではなく、軽度、中等度の子どもはすり抜けてしまうことがあるそう。「こうした場合、3歳児健診や日常生活で親御さんが“何かおかしいな”と感じられて発覚するということがあります」

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・ 声が大きい、テレビを前で見る、聞き返しが多い理由
・ 滲出性中耳炎は水が入ってなるわけではない
・ 口を開けている子どもは扁桃、アデノイドが大きいケースも