お国柄がにじみ出る世界の子育て事情を、各地に住むライターのリレーでリポートしていくこの連載。今回はアメリカの最先端の幼児教育について、ライターの大井美紗子さんに伝えてもらいます。

ギター・キーボード・ドラムが目の前で熱演!

 日本同様、アメリカでも早期教育に力を入れる親は多い。中でも人気を集めているのが「音楽教室」だ。児童心理学者や脳科学者などの専門家が「子どもの能力を伸ばすには『音楽』がいい」と提唱しており、趣向を凝らした教室が数多く存在する。アメリカ西海岸の都市・シアトルから、ユニークな取り組みをしている教室を3つ紹介する。

 『ニューヨーク・マガジン』に「最高の幼児向け音楽教室」と評された「ソングス・フォー・シーズ(Songs for Seeds)」は、アメリカ12州20都市にクラスを持つ全国規模の音楽教室だ。対象年齢は生後すぐの乳児から6歳までと幅広く、教室には首がすわっていない赤ちゃんもいれば、元気に跳びはねる園児もいる。

©Songs for Seeds (Seattle) ギター・キーボード・ドラムの演奏が間近で見られる
©Songs for Seeds (Seattle) ギター・キーボード・ドラムの演奏が間近で見られる

 最大の特徴は、目の前で生バンドが演奏してくれること。手を伸ばせば届くような至近距離でキーボードが奏でられ、ギタリストが跳びはね、ドラムが音を鳴らす。楽器の振動が体にびりびりと伝わり、まさに全身で音楽を味わうことができる。楽曲はほとんどがオリジナルだが、時折テイラー・スウィフトなどのポップソングも演奏されることがあり、親もライブ感覚で楽しめる。

 曲に合わせて数をかぞえたり、動物の名前を当てたりと、教育要素が強いことも特徴的だ。1歳にも満たない子に数を教えるのは早過ぎるのではないかという気もするが、「何かを学び取るのに、対象年齢はない」とシアトル教室オーナーのデビー・ファラー氏は言う。「子どもたちが『学習』と認識する前に、『遊び』を通じて教えることが重要」というのが同教室の考えだ。

 「『遊び』を通じて学ぶ」のは確かに効果的で、例えば「片付け」や「お手伝い」といったしつけも、同教室は楽しい「遊び」に変えてしまう。たとえば曲と曲の合間に、毎回「片付けの歌」が差し挟まれるのだが、その歌が流れだした瞬間子どもたちは、「あっ! この歌しってる!」とばかりに今まで使っていたマラカスやタンバリンを集め、元あった箱に入れるのだ。そして、次の歌に備える。「この歌が流れたら、お片付けの時間」としっかり認識しているのである。この手法は教室を離れて家庭でも実践することができ、親たちに好評を得ている。

©Songs for Seeds (Seattle) 「片付けの歌」が流れると、子どもたちは自発的に楽器を箱へ入れ始める
©Songs for Seeds (Seattle) 「片付けの歌」が流れると、子どもたちは自発的に楽器を箱へ入れ始める

 教室は1回当たり45分間。終了後は、バンドが実際に使った楽器を子どもたちに触らせてくれる。つい先ほどまで音を奏でていたギターの弦をはじき、ドラムをたたくことができるのは、何にも勝る経験だ。月謝は109ドルでやや高額な部類に入るが、人気は高まる一方。「幼いうちから本物の音楽に触れさせたい」「楽しみながら、学習要素に触れさせたい」と望む教育熱心な親たちに支持されている。