息子はいつも、私に世界の広さを教えてくれる

 海を従えて延々と続く岩山の上には、18基の風力発電のタービンが並び、風を受けて最高時速200キロで回っている。辺りは一面、原生林。太古と未来の接点に立つと、たかが数十年しか生きられない私なんぞ、もう消えているも同然の存在だ。感動は不安を伴うと、より深くなる気がする。

 だからだろうか。11歳の次男は、そんな時に必ず小さな生き物を見つけて、じっと観察する。自分を大地にしっかりつなぎとめるみたいに。

 巨大な風力タービンの根元で見つけた、小指の先ほどの美しい縞模様のカタツムリ。翌日、ユーカリの巨木の森で高さ40メートルの空中回廊を歩いた後には、古木の陰に生えているキノコ探し。最終日に登った原野の真ん中の岩山では、頂上から遠くの山並みと地平線が一望できた。するとやはり次男はしゃがんで、岩の上を這っているゴマ粒ほどの美しい甲虫を見つけたのだ。私はいつも彼に、世界の広さを教えてもらう。ここにもあそこにも、時は等しく満ちている。

 前は弟と一緒にしゃがんで虫に見入っていた長男は、私よりも背が高くなって、遠くがよく見えるようになった。全てを目に入れたくて、もどかしそうにしている。私も14歳の頃、いっそ両目をつなげてパノラマ映像で世界を見たいとさえ思ったものだ。いま彼は世界の大きさに歓喜しながら、急速に変化を遂げつつある自分の内面をも旅している。