前回記事「未だに大切なことの多くが『タバコ部屋』で決まる」では、2017年1月31日~7月31日に実施した女性エグゼクティブ調査に対し、135人の女性エグゼクティブから回答が寄せられました。回答から透けて見えてきたのは、まだまだ企業に根強く残る「男社会」の姿でした。「2020年までに女性の管理職を30%に引き上げる」という掛け声があるものの、男の牙城には暗黙のルールと呼ぶべき前提がいまだに存在し、理不尽な思いをしている女性エグゼクティブが少なくありません。彼女たちから寄せられた赤裸々な本音や悩みに対し、リクルートエグゼクティブエージェントのコンサルタントとして各業界のエグゼクティブの実態に詳しい、森本千賀子さんに伺います。

【女性エグゼクティブin「男社会」本音トーーーク! 特集】
(1)大切なことが「タバコ部屋」でいまだに決められる
(2)森本千賀子 良識ある幹部を探し、自分を売り込んで ←今回はココ
(3)女性管理職 転職せず、3割が年収2000万円以上
(4)昇進する女は「コミュ力・実績・専門的経験」がある
(5)専業主婦の妻を持つ上司「女は働かないほうが幸せ」
(6)男性は自分が特権階級にいることに気付いていない
(7)「女性経営幹部135人の本音」大公開!

社内政治の情報戦は「おじさんビルトイン」武装で!

 今回の女性エグゼクティブ調査で「これまでのキャリアを振り返って、つらかったこと」を尋ねたところ、一番多かった回答は、「男性だけでネットワーキングが行われ、女性は重要な情報を入手できなかったこと」というものでした。主にタバコ部屋や飲み会で、大事な意思決定がなされ、その情報が共有されない。女だからという理由で爪弾きにされ、同じ土俵にあがることすら許されない。

 最近では「女性たちが、こうした男社会に諦めているからダイバーシティーが進まない。女性たちがもっと声を上げるべきだ」という論調もよく聞こえてくるようになりました。数多(あまた)の経営者やエグゼクティブの相談役として絶大な信頼を得ている森本さんは、こうした男社会の理不尽とどう付き合ってきたのでしょうか。

 「最近は社内の喫煙者も減り、一昔前よりはだいぶ状況が変わってきているとはいえ、生々しい意思決定や情報共有が居酒屋や喫煙室での談話中になされる、という風潮はまだまだ存在しています。いわゆる下ネタ込みの男性同士のおしゃべりが交わされるお酒の席に女性がいると白けるというムードもあり、居心地の悪さを覚える方も少なくないようです」(森本さん)

 自分の中に適度な“おっさん”を飼い慣らし、下ネタも涼しい顔で流すことができる女性もいる一方で、正義感や倫理観が強く、いわゆるグレーゾーンを許せない人もいる。声に出さずとも不愉快だと感じることも多いはず。とはいえ、男女の平等を声高に主張し、露骨な態度を取ることで「彼女の前で、この話題はご法度で」と男性陣から見えない線引きをされてしまうのは損だ、と森本さんは言います。

 なぜならば、もし仮に実績のない「おじさんビルトイン」タイプの女性と、実績はあるが「おじさん化を毛嫌いする」タイプの女性がいた場合、仕事の場では、やはり前者のほうが引き上げられる可能性がまだまだ高いから。

 「実績や業績はある意味、運です。支援してくれる人がいれば上げられる。誰が見ても成功が約束されているプロジェクトにアサインし、成功体験を積ませたうえで次のポジションに上げる。そんな『いかにも』というケースは実際、よくあります。自分で自分を“おじさんナイズド”するかどうかは別にして、社内政治はうまくなったほうがいい

 「現実問題として、人事は常にクローズな場所で決まるものです。仮に、同じレベルのAさんとBさんがいた場合、意思決定者は自分にとって、よりメリットのある人材を登用するのは自明の理。社内政治に長けたほうがいいと私が言うのは決して『偉くなれ』と言っているのではなく、より経営に近いポジションに身を置いたほうが自分の仕事の裁量が大きくなるし、自己実現への近道にもなるからです。あくまでも社内政治は自分の仕事をしやすくするための手段と捉えてみては」

<次ページからの内容>
・ 理不尽と捉えず、性差を認める
・ 「女だから下駄を履かされている」という逆差別も
・ 男社会になじめない部下と男性上司の橋渡し役に
・ どんな会社にでも、経営幹部にバランスの取れたキーパーソンが1人はいる