前回記事では、今回実施した女性エグゼクティブ調査の回答から、「困難だと思ったときに取った対策は?」「あなたの会社において、女性活躍のために効果的な事柄は?」「あなたの会社のために、女性活躍のために、これから必要な事柄は?」の3つについて取り上げました。本記事では、「2030達成のために、必要なことは何か」という質問に対するコメントと、それに対する、育休後コンサルタント・山口理栄さんによる解説を紹介します。最後に、元マイクロソフト日本法人社長の成毛眞さんにもご意見をうかがいました。

【女性エグゼクティブin「男社会」本音トーーーク! 特集】
(1)大切なことが「タバコ部屋」でいまだに決められる
(2)森本千賀子 良識ある幹部を探し、自分を売り込んで
(3)女性管理職 転職せず、3割が年収2000万円以上
(4)昇進する女は「コミュ力・実績・専門的経験」がある
(5)専業主婦の妻を持つ上司「女は働かないほうが幸せ」
(6)男性は自分が特権階級にいることに気付いていない ←今回はココ

(7)「女性経営幹部135人の本音」大公開!

数値目標を達成するためには、国からの強制力が不可欠

 今回の調査では、女性エグゼクティブ135人の本音に迫りました。「女性エグゼクティブを、2020年までに企業内で30%以上にするために国がすべきことは何だと思いますか?」という質問項目に対して自由記述で回答してもらったところ、様々な意見が集まりました。その中には、「クオータ制の導入」「保育園の充実」「ダイバーシティーの推進」といったキーワードが多く盛り込まれていました。以下、膨大に書き込まれた内容の一部と、自身、男女雇用機会均等法施行以前に大手IT企業に就職し、部長まで昇進した経験のある、育休後コンサルタント・山口理栄さんによる解説を紹介していきます。

Aさん 「女性の側にも意識改革が必要」

 Aさん(日系/電気・電子機器/インハウスデザイン部門/部長/52歳)が主張していたのは、「男性管理職の多様性に対する教育の重要性」です。「社会の中で、無意識に男女による差別が行われているため、社会全体として気付きを促すべきだ。女性に対してどうコミュニケーションすべきかといった、具体的なスキル強化も必要だと思います」という一方で、女性の側にも意識改革が必要だとの指摘も忘れません。「社内で昇進を断った女性社員には責任感が強過ぎたり、周囲との上下関係のバランスが崩れることを不安視したりする人がいました。チャレンジすることの価値を理解してほしいです」

【Point 1】 男性は企業内の男女差別に気付いていない  

 Aさんのフリーコメントに対し、山口さんはこう指摘します。「私が前職で課長だったときのことです。直属の上司だった本部長に関して、今でも忘れられないエピソードがあります。社内の部長と本部長が集まる研修で、あるとき、外部の先生から『この場にいる面々が全員男性だということが、そもそもおかしいですよね』と指摘されたというのです。その本部長は、そのとき初めて『あ、そうだな』ということに気付いたそうです。そしてその後、その本部長は私を部長に昇格させてくれました。一般的に言って、男性は企業の中の男女差別に気付いていないかもしれない。ですから、気付いてもらうということは必要です」

 山口さんは、続けます。

 「男性は自分が特権階級にいることに気付いていません。一般的に、特権を持っている人は、自分はそれに気付いていないことが多いんです。一方で女性は自分がマイノリティーだという自覚がありますよね」

 では、特権階級である男性に、自分が特権を持っていることに気付いてもらうためにはどうしたらいいのでしょうか。「例えば、男性には『あなたが欧米諸国に行ったときに周囲の目を意識したことはありませんでしたか?』と聞いてみてはいかがでしょう。『そういえば、アメリカに行ったときに自分がアジア人であることに対して気後れした経験があるな』『英語が通じなくて、ちょっと恥ずかしかった』『……ああ、その気持ちか』。こうしたプロセスを経た意識改革を、私たちはまだ経験してきていないのです。恐らく、多種多様な人がいる欧米では、こうした意識改革が進んでいると思います」。

 山口さんは続けます。「また、性別に限らずステレオタイプ的なものの見方による偏見に気づくことの重要性が認識されてきています。グーグル社で行われた『無意識の偏見』に関するトレーニングはよく知られていますし、国内でもグローバル企業の日本法人を始めとして、無意識の偏見を考えるワークショップなどが行われています」

 これは、誰もが気づかないうちに偏見を持っているのだということを前提にする、という基本的な考え方です。「これを特に男性エグゼクティブには学んでほしいと思います」

【Point 2】 女性は「自分に何を補えばいいか」考えてみよう

 後半の昇進を断った女性社員に関する記述については、こう語ります。「これは、女性に対する教育が足りない。先日、イクボス企業同盟の主催で女性管理職養成講座というものを開催しました。その場では、やはり女性たちの管理職の仕事そのものに対する理解が浅かったり、自分に何が足りないかということも理解していなかったりしたことが明らかになりました。『管理職になる意味』がピンときていない様子でしたし、『自分には無理だ』などという思い込みも激しかったように思います。管理職とは何か。なるためにはどうすればいいのか。自分に何を補えばいいのか……ということを管理職予備軍に、もっと教育していく必要があるでしょう」

<次ページからの内容>
・ やはり最もネックになるのは、保育園
・ 女性活躍を管理職登用の条件に
・ キャリアダウンにせず、人生のタイムラインに即した働き方を選べるような国に
・ 男社会云々で悩むなら、新天地で活躍の場を探れ