デング熱、ジカ熱の問題は?

ヒトスジシマカ(出典:国立感染症研究所ホームページ)
ヒトスジシマカ(出典:国立感染症研究所ホームページ)

 ワクチンがある日本脳炎に対し、同じく蚊が媒介して感染する感染症で、ワクチンがなく、治療法も確立されていないのがデング熱(デングウイルス感染症)やジカ熱(ジカウイルス感染症)。どちらもヒトスジシマカという蚊が媒介する。

 久住先生は「デング熱はリスクが大きく、症状も強いんです」と話す。デング熱はアジア、中南米、アフリカなどの熱帯・亜熱帯地域で発生。2~14日の潜伏期ののち、急激な発熱で発症し、発疹、頭痛、骨関節痛、嘔気・嘔吐などの症状が現れる。通常、発症後2~7日で解熱する。まれに重症化してデング出血熱やデングショック症候群を発症することがあり、早期に適切な治療が行われなければ死に至ることもある。デング熱の輸入症例は年々増加傾向にあり、2016年には335例を記録している(出典:厚生労働省)。

 ジカ熱はリオ五輪の年にブラジルで大流行し、「性交渉でも感染する」「妊娠中に感染すると生まれてきた子どもが小頭症になるリスクが高い」ことが大きく報じられた。実は感染症状自体は軽度とされ、感染後(潜伏期間は不明で数日から1週間以上の場合もある)、デング熱同様に発熱、発疹、結膜炎、筋肉痛、関節痛、倦怠感、頭痛などが起こる。ただし比較的軽度で、2~7日で治るという。問題はその後、感染者がギラン・バレー症候群を発症したり、ジカウイルスの流行地域で小頭症の新生児が増加したりしていること。

 またデング熱もジカ熱も感染しても80%の人は症状が出ないので、知らない間に感染して広めている可能性があるという。

小頭症の解説図
小頭症の解説図

出典:CDC website

ダニに刺され、感染症にかかり死亡するケースも

 蚊が媒介する感染症も怖いが、ダニが媒介する感染症も近年、問題になっている。

 例えば死亡例も報告されている重症熱性血小板減少症候群(SFTS)は、マダニが媒介する感染症の一つだ。発熱、消化器症状(嘔気、嘔吐、腹痛、下痢、下血)が起き、腹痛、筋肉痛、神経症状、リンパ節腫脹、出血症状などが現れる感染症で、致死率は10~30%程度となる。また、最近北海道での感染例が報告されたダニ媒介脳炎や日本紅斑熱なども、マダニに刺咬(しこう)されることにより感染する。

 またブユも侮れない。「ブユは刺されたところをかくことで、難治性慢性痒疹(5mm~2cmくらいの硬い隆起が多数現れ強いかゆみがありひっかくことで悪化する)の原因になることもあります」と久住先生。

「蚊に刺されたくらい大丈夫」は過去の認識

 「蚊(やダニやブユ)に刺されたくらいなら大丈夫、という認識は、今の世の中では危険ですね」と久住先生。 「例えば、東南アジアなどのデング熱の流行国に行くと、15歳以下しかかからない例がほとんどなのですが、実はこれは、それまでに何度かかかってサバイブした人だけが、現状生きている、サバイブした大人たちだけ生きているから“蚊ぐらい大丈夫”と言えるわけです。
 日本でも気温の上昇が叫ばれて久しいですが、月の平均気温が25度を下回らない地域では蚊は冬でも生き続けますので、感染サイクルは無限になります。今後、日本の平均気温が上がり続けるようなことがあれば、もしデング熱を持った蚊が定着するようなことになると、感染が続いてしまう可能性があります」

 蚊を発生させない努力も必要だが、虫よけを使い、特に子どもが虫に刺されないようにしたい。

(取材・文/山田真弓)