妊婦は使っていい? 擦り傷があっても使える?

 ディートは生後6カ月から使えるというが、では妊婦はどうなのだろうか。

 「むしろ妊娠中に蚊に刺されることで、昨年話題になったジカ熱(ジカウイルス感染症)に感染することがあれば、生まれてくる子どもが小頭症になるリスクが高まることにもなりかねません。しっかり使って虫刺されを防いでください」

 また、子どもの場合、擦り傷、切り傷があるときでも使っていいのか迷うこともあるが、「傷はミクロのレベルで見ればどんな人にもあるものです。塗ったらヒリヒリするようなところがあったら、そこは避ければいいと思いますし、日焼けの後、真っ赤になっているような皮膚は、バリア機能が落ちているから塗らないほうがいいのですが、小さい傷なら問題ありません。かさぶたが付いたような傷には塗って大丈夫ですよ」

 なお、衣服にスプレーしたい場合、ディートは避けたほうがよいそうだ。

 「ディートの成分でプラスチック=化学繊維の服が溶けてしまうことがあるので注意が必要です。イカリジンのほうが使いやすいと思います」

 ちなみに、虫よけは殺虫剤ではないので、蚊やダニに吹きかけても死んだりはしないそう。あくまでも皮膚もしくは服にかけて使うことで効果を発揮する点も認識しておきたい。

 ところでこれほどまでに虫よけを使うことが推奨されるのはなぜか。

 これは蚊やダニが媒介する感染症が、致命的なものであるためだ。いくつか紹介しておきたい。

日本脳炎は、ワクチンはあるが治療法はない蚊媒介の感染症

 蚊が媒介する感染症の中でも、日本や東南アジアに昔からあり、よく知られているのが「日本脳炎」だ。「ジカ熱やデング熱と同じフラビウイルス属のウイルスである日本脳炎ウイルス(JEV)で、主にイエカ(Culex)という種類の蚊が媒介して感染が広がります。日本では水田で発生するコガタアカイエカが媒介します」と久住先生。

 感染しても症状が出るのは100~1000人に1人で、ほとんどの人は無症状。とはいえ症状が出た場合、死亡率は20~30%もあり、生存者の30~50%には神経学的後遺症(精神病、認知症、高次脳機能障害、麻痺など)が残る。有効な治療法は特になく、点滴など補液や人工呼吸管理などをしながら自然回復を待つしかないという。

 日本ではワクチン(予防接種)が定期接種(感染症対策上、重要度が高く、行政の費用負担による予防接種のうち、一定の年齢において接種を受けることとされているもの)に含まれている。「それなら大丈夫なのでは」と思いきや、日本脳炎ワクチンは2005(平成17)~2009(平成21)年度の間、接種勧奨が差し控えられていたことがあるので、10~22歳の人は、ワクチン接種回数が足りていない(免疫が十分ではない)可能性がある。また、昨年、千葉県で日本脳炎感染者が現れ、北海道で昨年から定期接種になったこと、災害の影響を受けたワクチン製造工場があることから、現在、日本脳炎ワクチンは不足している。

出典:国立感染症研究所ホームページ https://www.niid.go.jp/niid/ja/jeqa.html