2003年に発表された『負け犬の遠吠え』で30代以上・未婚・子ナシを「女の負け犬」と定義し、当時のアラサー女子を震え上がらせたり、勇気づけたり…で、社会現象を巻き起こした酒井順子さん。その後も、未婚未産の女性の生き方を考える『子の無い人生』や、女性の内にある男女差別意識をあぶり出す『男尊女子』など、「私の感じていたモヤモヤはこれだ!」と世の女性の代弁者として圧倒的な共感を呼んできました。そんな酒井さんに、「ワンオペ妻」と“男尊女子”成分の関係から、女性登用“2030”について、さらには専業主婦ママvsワーママ問題まで、日経DUAL羽生祥子編集長が話を聞きました。

「ワンオペ妻」と“男尊女子”成分の意外な関係

羽生編集長 新著『男尊女子』を読みました。女性の中にある潜在的な「男が上、女が下」という男女差別意識に深く切り込んでおられて、ハッとしました。

 酒井さんは「ワンオペ育児」という言葉をご存じですか? 共働きの夫婦間で育児や家事を妻、もしくは夫のどちらかが一人で担っている「ワンオペレーション育児」のことで、いま社会問題化しています。DUALでも何度か記事にしているのですが、「ワンオペ育児」の原因はどうも育児や家事を丸投げする夫にだけあるわけではないようなんです。妻が愚痴を言いながらも自ら「ワンオペ道」を突き進んでしまうというケースが少なからずある。そして、そんな「ワンオペ妻」に陥りやすい女性は共通して「夫の自慢をしたい妻」だったりする。そこには酒井さんの著書『男尊女子』にもある、女性の中にある男女差別意識、いわゆる“男尊女子”成分が関係しているのではないかと…。

酒井順子さん(以下、酒井) 私自身、子どもがいないのでワーキングマザーの世界をよく知っているわけではないですが、例えば、夫が家事を分担してくれたらうれしいけれど、あえて言わない、あるいは言えないのか。自分の母親が全部の家事をやっていたので自分もやるべきだと考え、やってしまっている人もいるでしょう。また、夫に手伝ってと言うことによって夫婦関係がこじれるのが嫌で、波風を立てないために自分がやってしまっている方もいるかもしれない。ワンオペになっている理由も、いくつかあるのではないかと思います。

 逆に、夫が家事をやる分量が多い人を見ていると、「夫が家事やってくれる自慢」というのもありますよね。でも、そういう人たちはやっぱり少しずつ夫を教育したりとか、家事をやってほしいとお願いしたりとか、そこで起こり得る色々な波風を乗り越えながらやってきたのだと思います。一人で抱え込んでしまっている人は、そうした面倒を避け続けた結果として、自分自身で背負っている感じもしますね。

 なかには、「私はこんなに大変なのに、夫はなんで手を差し伸べてくれないんだろう」と思っている人もいるかもしれませんが、やっぱり言わないと分からない。日本の女性は、言わなさ過ぎるように思います。たとえその時、言われたことの意味を夫が理解できなくても、「言われた」ことをきっかけとして、これから先何か変わってくるかもしれないですよね。

―― グチグチ言うくらいなら、さっさと夫に頼めばいいのに…と、私なんかは思ってしまうのですが(笑)、『男尊女子』を読むと、「夫が上で自分が下」ということをアピールしたい人がいるんだなと改めて知りました。

酒井 とくに専業主婦の人に多いのかなと思いますね。あえて夫のことを「主人」と呼んだり…。「主人」と呼ぶ人は、そう呼びたくてその言葉を使っている。「主人」という言葉のそもそもの意味を考えると、上下の差をつけるための言葉なので、あえて自分を下に置くことが誇り、という人もいるでしょう。

―― 酒井さんがもしパートナーと育児することになったとしたら、「ワンオペ」の罠にハマってしまうでしょうか…?

酒井 相手次第ですよね(笑)、頼みやすい人かどうかとか。相手が誰であれ、家事はきっちり半分やってよねと言える性格ではないので。結局、自分のほうが少し多く家事をやっているような気がします。

 いまの若い世代は全然「男尊女子」ではないですよ、という意見があるのですが、いくら若くても、男の人に意見が言えないとか強く出られないという女の子は結構いるんですよ。この世代から下は男女平等だと、きっぱり分けられるものではないと感じています。

1966年、東京都生まれ。エッセイスト。高校在学中より雑誌にコラムを発表。立教大学卒業後、広告会社勤務を経て、執筆専業となる。2004年、婦人公論文芸賞、講談社エッセイ賞をダブル受賞した『負け犬の遠吠え』(講談社)は社会現象を巻き起こした。ほかにも、『ユーミンの罪』(講談社)、『地震と独身』(新潮社)、『子の無い人生』(角川書店)など著書多数。最新刊は『男尊女子』(集英社)。